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「フォージーの戦い」

 日差しが二人の戦士を照らし出す。鈍色に光る仮面騎士と、銀色に輝くドラグフォージー。まるで仮面騎士が負けたかのような太陽の嫌がらせのようだった。しかし、カンソウも特別室の者達も気紛れなその光りには騙されない。

 セコンドのルドルフが同じくセコンドのドラグナージークに皮肉か嫌味か言っているようだ。ドラグナージークはそちらを見て一応は聴いたつもりのようだが、意に返す様子もなく甥のシンヴレス皇子、いや、ドラグフォージーに声を掛けていた。

 戦う二人は互いに様子見て、それだけで一分経過していた。

「何だ、ドラグフォージーとかいう奴は、腰が抜けちまったのか?」

 デ・フォレストが言った。

「もしこの状態をそういうのならば、相手にも当てはまるがな」

 相棒のフォーブスが言うと、デ・フォレストが舌打ちした。

 カンソウは前々から一つ疑問があった。あれだけロートル嫌いのデ・フォレストが何故、ロートルと呼ぶカンソウと近い年代のフォーブスと組んでいるのか。しかし、その前に試合が動いた。

 両者ともに突っ込み剣を繰り出し、突きをそれぞれ躱して剣で打ち合った。

「フォージー、すげぇ」

 最初にドラグフォージーの剣の速さを見抜いたのはカンソウの弟子であった。

 攻撃は最大の防御というように、乱打の嵐が、木のぶつかる音と共に繰り返された。

 ドラグフォージーはこのままでは埒が明かないと判断したのか、後方に飛び退いた。

 仮面騎士は一瞬佇むと、すぐに攻め入った。

 ドラグフォージーは剣で受け止めると、競り合いに入る前に、またも後方に跳んで離脱した。

 ブーイングでは無いが、消極的なドラグフォージーへのヤジが飛ぶ。ルドルフも仮面騎士が優位と見たか、調子に乗ってあれこれ、ドラグフォージーを侮辱していた。カンソウは頭が痛かった。ルドルフ、お前は皇子が寛大で無ければ重い不敬罪で首を落とされるところだぞ。この場にいる誰もがドラグフォージーの素性を知らない。しかし、皇族でありながらあそこまで剣の腕を磨いているシンヴレス皇子は凄かった。

 両者がまた乱れ打ちに入った。隙が出来ればそれは負けを意味する。力も必要だが勘と技術も物を言う。ドラグフォージーは時に圧倒し、時に劣勢になっていた。木剣同士のぶつかり合う音だけが轟き、観客は黙り込んで戦いに見入っていた。

 その時、扉が叩かれ、これまた顔にバイザーを下した騎士風の者が午後の戦いで名を馳せている戦士の一人カーラと共に現れた。

「何だい、ずいぶんいるね」

 カーラが言った。年の頃は四十を過ぎた辺りだろうか。厚い唇を上げてそう言った。

「午前の危機だからな。おい、ゲント、お前が弱くなけりゃあ、俺だって午後に居られたんだぞ!」

 セーデルクが八つ当たり気味に言った。だが、ゲントはセーデルクを一瞥し、試合に向き直った。

「こちらにお座りください」

 カーラが丁寧な言葉で、主と思われる騎士風の戦士をカンソウの隣に導いた。

「状況はどうなっていますか?」

 騎士風の主が喋ったが、それが明らかに女性の声だったので、ゲント以外は驚いていた。

「ここは女子供の来るところじゃないぜ。帰んな」

 デ・フォレストが威圧するように言うと、ゲイルが反発した。

「あんたこそ、弱者の来るところじゃないぜ、帰りな」

「何だと、このクソガキ!」

 デ・フォレストが激昂したが、女騎士が言った。

「お静かに。今はドラグフォージー様の活躍を見守りましょう」

 デ・フォレストとセーデルクが舌打ちし、前に向き直る。

「見ての通り、互角です」

 カンソウは隣に座った女騎士にカーラを見倣い丁寧な口調で言った。

 試合場では乱れ打ちを放っていた両者が離れ、再びぶつかっていた。

 ドラグフォージーが突きを放てば、仮面騎士は避けて、同じく突きを出す。しかし、両者ともすれすれで避けるのだ。

 そして一人が跳べばもう一人も同時に跳んで、頭上で剣をぶつけ合う。木剣の激突の音が止むことは無かった。

「あと、二分」

 女騎士が言い、カンソウ達も慌てて審判を見た。その指は二本だけ立っている。

 だが、不意に音が止んだ。ドラグフォージーと、仮面騎士が距離を取り向かい合っていた。

 誰もがその様を見詰めていた。最後の激突が始まる。審判の指が既に一本だけになった。

 両者は共に駆けた。

 カンソウは互いに突きで来るかと思ったが、そうではなかった。

 仮面騎士の頭上からの一太刀をドラグフォージーは跳んで避けた。剣の切っ先が掠めそうな距離であった。そうして上空で真上を見た仮面騎士の鉄仮面目掛けて振り下ろした。

 勝った! 誰もが確信し、「よし!」とゲイルだけが口に出した。鉄を強かに打つ木剣の音色が轟く。

「ちいっ、ドラグナージークが選んだだけあるな」

 悔しそうな顔で嬉しそうにセーデルクが言った。

「全くだぜ。冷や冷やさせやがる」

 デ・フォレストも安堵の息を吐いていた。

 だが、女騎士が言った。

「引き分けですね」

「えっ!?」

 ゲントは黙したままだが、カーラ以外、カンソウら師弟も含め、思わず声を上げていた。

「見てなかったのかい? 審判の指を。まぁ、今更見ても手遅れだけどね。結果を聞いてみな」

 カーラが男達に言った。カンソウらは慌てて審判を見た。

「時間切れで、引き分けとする!」

 審判はそう宣言したのだった。

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