「散り逝く友たち」
金貨を二枚払い特別室へ赴くと、そこにはセーデルクと、ゲント、デ・フォレストとフォーブスが既に着座し試合を見守っていた。
「カンソウ」
全員が振り返った中、フォーブスだけが好意的に声を掛けてくれた。
セーデルクは舌打ちし、デ・フォレストはそっぽを向き、ゲントは黙ってこちらを見ていた。
「何なんだ、あいつは、デズーカが全く太刀打ちできてねぇ」
デ・フォレストが言った。
「デズーカさんなのか!?」
ゲイルは慌てて座席へ飛び乗り、試合場を見詰めていた。
「カンソウ、どう思った?」
フォーブスが尋ねて来た。
カンソウは彼の隣に座ると、正直に言った。
「ヴァン達も危ないかもしれない」
ゲイルとゲント以外の三人が目を向けて来た。
「よく言うぜ。弱者だから、敗北者だからそう大げさに誇張してるんだろう?」
セーデルクが意地悪く言うとデ・フォレストが頷いた。
「年寄りには厳しい相手か?」
デ・フォレストがからかうようにそう尋ねるとフォーブスが言った。
「ヴァン達も若くは無い」
セーデルクが舌打ちし、デ・フォレストは何か言おうとして言葉を探しているようであった。
カンソウは試合を観ていた。セコンドのディアスが必死に檄を飛ばしている。デズーカは巨体を上下させ、荒々しい呼吸を吐いていた。
「師匠、デズーカさんの居合をあの仮面騎士とかいう奴は完全に見切ってるぜ」
ゲイルがゲントの隣で顔を上げて言い、また試合を見詰めた。
デズーカが居合の構えをしている。仮面騎士は恐れることなく無造作に間合いを詰めた。
「デズーカ……頑張れ」
仮面騎士の余裕と対比するデズーカの姿を見れば、カンソウは険しい表情になるしかなかった。
「ヒケエエエン!」
デズーカが神速の一薙ぎを放つが、既に仮面騎士は掻い潜り、デズーカの懐に飛び込んでいた。
そして剣でデズーカの胴を激しく突く。次の瞬間、デズーカは前に後ろによろめき、前に倒れた。
「デズーカ……」
カンソウは拳を握り締めていた。
「あの野郎は何だ、全身金属で固めているくせに飛び込んだのが見えなかったぜ」
デ・フォレストが言った。
デズーカが大きな担架に八人がかりで運ばれ試合場を後にした。
ルドルフの高笑いが良く聴こえ、耳障りであった。
「テメェが打ちのめしたわけじゃねぇだろう、ドクズが」
セーデルクが思わずといった形で言った。
「ああ、全くだ、あの悪党」
デ・フォレストが同意する。
次の入場者を見て、カンソウは驚き、あるいは不安になっていた。
「ヒルダ姉ちゃんだ!」
ヒルダとガザシーが試合場に入り、客達が声援を送る。
ガザシーがセコンドとして離れ、ヒルダが仕切り板の後ろに立った。
審判が宣言し第三試合が始まった。
ゲイルが声援を送る中、カンソウらは試合を注視していた。
ヒルダの投擲を弾き返し、間合いに入った彼女を完全に捉え、剣を振り下ろす。ヒルダは間一髪転がって回避し立ち上がった。ヒルダの動きまで読まれている。
「あの姉ちゃんも駄目かもな」
セーデルクが言ったが、誰も答えなかった。今、コロッセオはスパーク以来の脅威に晒されていた。観客だって長年試合を観て来た者達ばかりだ。この彗星の如く現れた得体のしれない仮面騎士とやらにチャンプにはなって欲しくはないだろう。
ヒルダは善戦することができず、「竜閃」を辛うじて放ったが、屈みこんだ仮面騎士は次の瞬間、跳び上がり、ヒルダの脳天に剣を振り下ろしていた。ヒルダの頭の防具は皮の帽子だ。丈夫だが鉄ほどの強度は無い。何かしら頭がダメージを受けていなければ良いが……。
ヒルダもまた担架で運ばれて行った。
カンソウは思った。今こそ、今こそ、戦いたかった! だが、もうそれができないのだ。今日の分は終わっている。
「ドラグナージークだ!」
デ・フォレストが声を上げ、まるで歓喜していた。
だが、彼の期待の笑みはすぐに引っ込んだ。何故なら、仕切り板の前に立ったのは、ドラグナージークではなく、ドラグフォージーだったのだ。
「ふざけんな! あんな奴に何ができる! ドラグナージークを出せ!」
デ・フォレストが、一変し憤って叫んでいた。
「フォージーはあんな奴呼ばわりされるような戦士じゃないよ!」
ゲイルが一喝する様に声を上げた。
「ガキに何が分かる」
デ・フォレストが少しだけ動揺したように歯切れ悪く呻いた。
「ドラグフォージー、チャンプ戦でヴァンと戦っている。まだ失望するには早い」
フォーブスが落ち着いた声で言った。ゲントだけはバイザーの下で黙したままであった。
特別室の全員が熱い期待を持ち、ドラグフォージーを見詰めていた。
そして審判の宣言の下、試合が始まった。




