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「謎の相手」

 次の相手が意気揚々と入場してきたが、ルドルフ一人であった。

 ルドルフは前回の卑怯な手段でガザシーの腕の骨を折る大罪を犯した人物だ。会場内もルドルフに対するブーイングの嵐だった。

 こちらに向き合うルドルフは相変わらずの子悪党面でニヤニヤしていた。

「カンソウ、今日で、テメェは終わりだ」

「また卑劣な浅知恵でも思い浮かんだか?」

「な、何だと、この野郎!」

 ルドルフがカンソウに殴りかかんばかりの勢いで詰め寄って来たがカンソウは飛び出すゲイルを手で制し、相手を静かに見つめていた。

 ルドルフは鉄の鎧を着ているが、その重さに対応できていない。簡単に勝てる相手だ。あのゲントの様には動けまい。

「もう一人はどうしたんだよ! 二人一組で無いと試合には出られないはずだろ!」

 ゲイルが鋭く指摘すると、ルドルフは後ろを振り返った。

「あんたの出番が来たぜ!」

 ルドルフが勝ち誇った顔を見せる。カンソウは自分を越える相手がまさか現れるとも思わなかった。何故ならルドルフ程度の小悪党と組むぐらいだ、その選別眼もたかが知れている。しかし、否とも思った。ルドルフと組もうとする者など、まずはいない。言わば余り物のルドルフをコロッセオ出場のために数合わせで組んだという可能性もある。

 鉄の靴底が石の床を踏む音が聴こえ、カンソウは入り口を見た。現れたのは鉄仮面をかぶり、全身をプレートメイルで覆った戦士であった。両手持ちの剣を手にしている。

「カンソウよ、聞いて驚け! この方はとある貴族の方の剣術指南役をされている仮面騎士様よ! テメェなんざ、歯も爪もたたない強いお人だ」

 仮面騎士が傍に来た。背が高い。デズーカほどでは無いが、それにしても、ルドルフの言葉は確かに合っているのかもしれない。カンソウは相手の静かな殺気に圧倒されていた。

「そちらの貴公は仮面騎士殿で名前は合っているのかね?」

 審判が尋ねた。

 仮面騎士は頷いた。そしてバイザーの奥の暗闇の底でカンソウは睨まれているように感じた。

 こいつは強いぞ……。だが、だからこそ、闘技戦士は辞められない。強者と戦えることこそが戦士の喜び!

 二人は位置に着いた。

 ゲイルとルドルフがそれぞれ声援を送っている。

仮面騎士は剣を下したまま悠然とこちらを見ている。

「第三回戦、カンソウ対、挑戦者、仮面騎士、始め!」

 審判の宣言と共に仮面騎士が疾駆して来た。黒いマントが大きく翻っている。色の違いはあれど、一瞬ドラグナージークを思わせた。

 剣閃が煌めいた。

 カンソウは気後れせずに相手の太刀を受け止めた。剣越しに痺れが走り、久々に嫌な予感がした。こいつはチャンプのヴァンかウィリーにも値するかもしれない。だが、舐めるなよ、新参者! コロッセオの洗礼を浴びせる役目はこのカンソウが承った!

 剣で押し返して、相手が剣を払ったのでカンソウは再び下段から振り上げて攻撃を受け止めた。先ほどとは違い凄まじい力でカンソウを押して来る。ゲイルの声援が聴こえ、励まされ、カンソウは押されるがままに後退した。

 仮面騎士もカンソウの後に続く。

 ローキックを仮面騎士の膝頭にお見舞いするが、相手は何事も無かったかのように、カンソウへ切り付けて来た。

 鋭い風が空を裂く。これだけで分かる。戦い慣れている。

「師匠!」

「わははは、仮面騎士殿! そんな奴にこだわる必要もありません。そいつはコロッセオに掃いて捨てる程いる雑魚の一人です!」

 雑魚。

 雑魚に雑魚と認められ、さすがのカンソウも黙ってはいられなかった。

 この一戦、この戦いだけは勝たねばなるまい!

 カンソウは一歩強く踏み出し、相手の顔面目掛けて頭上から剣を振り下ろした。

仮面騎士は軽々受け止める。カンソウは声を上げて乱れ打った。

 仮面騎士はついてくる。剣に余裕が見えた。

「おのれ」

 カンソウは剣を後方へ下げて力を溜めると、一気に荒々しい一撃を放った。

「朧月イイイッ!」

 陽光を受ける相手の剣はそれを片手で軽々受け止め、次の瞬間、カンソウが何も備える暇もない間に強引に踏み込まれ胴を打ってすれ違った。

 鎧越しだが凄まじい痛みであった。思わず手を当てる。スケイルメイルの表面は陥没していた。

「師匠!」

「勝者、仮面騎士!」

「わははは、ザマを見ろ、カンソウ! お前の時代が来ることなど永遠に無いということが分かったか」

 カンソウは仮面騎士を振り返った。

 仮面騎士はこちらを見て、ただ剣を提げていた。

 俺は確かに雑魚だが、これは一波乱ありそうだな。

「行くぞ、ゲイル」

 カンソウはスケイルメイルのへこみ具合を見て更に危機感を募らせた。強烈な一撃だったが、仮面騎士はまだまだ底知れぬ力を持っているだろう。

「ゲイル、特別室に行くぞ」

 カンソウはそう言うと、先に会場を後にしたのであった。

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