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「ロートルの意地」

 午前の部の始まる直前に、カンソウは受付を済ませた。

 新たな挑戦者達が現れ、コロッセオを賑わせる。カンソウは昨日のヴァンの試合とフォーブスとの会話を思い出し、老人のようだがこう思った。「まだまだ若い者に負けはせん」

 控室へ向かう間にゲイルが言った。

「師匠、鉄の武器のことだけど」

「ん?」

「昨日、フォージーと話したら、フォージーも賛成してたよ」

「そうか」

「あれ? 楽しみじゃない?」

「ゲイル、悪いが、試合の前だ。少し静かにしてくれ」

 案内嬢の後に続きながらカンソウはそう言い、自分がプレッシャーとやる気に圧し潰されそうになり、苛立っているのが分かった。

 籠から木剣を取り、これが鉄製だったらどれほど手に馴染み嬉しいことかとも思った。もしも鉄の武器の使用が認められれば、ヴァン達も世代交代気味の空気を取り止めにしてくれるかもしれない。

「師匠?」

 ゲイルが遠慮がちに声を掛けて来た。

扉が開き、ジェーンが待っていた。

「カンソウさん、あなたの出番よ」

「分かった。行くぞゲイル」

 二人は控室から出た。



 2



 陽光煌めく大地には、セーデルクとゲントが待ち構えていた。

 今の俺はゲント未満かもしれない。自然とゲントを見下していた己に気付き、カンソウはかぶりを振った。

「油断大敵」

 カンソウが仕切り板に着くと、ゲイルが声を掛けて下がる。向こうは何と、セーデルクが位置についているではないか。セーデルクは午後の戦士。だが、負けん。

「良いか、ゲント、午後の戦いってのを教えてやる。しっかり見ていやがれ」

「四回戦、セーデルク対、挑戦者カンソウ、始め!」

 審判の宣言と共にカンソウはゆっくり間合いを詰め始めた。

「カンソウ、お前は今じゃ化石だ。ヴァンもウィリーも、ドラグナージークも。それを分からせてやらなきゃいけないようだ。未練がましく、いつまで闘技戦士にしがみついているつもりだ?」

 セーデルクが挑発してきた。以前のカンソウなら売り言葉に買い言葉、言い返す言葉を持っていたはずだが、不思議とそれが出て来ない。俺は良い奴になれたのかな。昔のような嫌な奴には戻りたくは無いものだ。

 カンソウは一気に踏み込んだ。

 剣を上段から振り下ろす、セーデルクはそれを避け、蹴りを放った。カンソウは惰性で駆けそうな足を止めて、振り返る。

 ゲイルが応援している。ゲントは何も言わない。

「ちっ」

 セーデルクが面白くなさそうに舌打ちをした瞬間、カンソウの中で怒りが湧いた。散るのなら華々しく! それが俺の意地だ!

「いくぞ、セーデルク!」

 名を叫ばれ、セーデルクの方は少し驚いたようだったが、不機嫌そうに顔を向けた。

「生意気なロートルが」

 カンソウはセーデルクの前に踏み込むと再度、剣を振り下ろした。今度はセーデルクも剣で受け止めた。その若手か中堅かのセーデルクの目が仰天に見開かれていた。

 そのまま競り合いに入り、カンソウは吼え猛り、セーデルクを、下へ下へと押し込んだ。

「くそがっ!」

 セーデルクが足払いを放つがカンソウはその足を踏みつけた。

 鉄製の靴であるグリーブ同士が音を上げた。

「師匠! そのまま押し込んじゃえ!」

 ゲイルが声を上げる。

 セーデルクは潰れる前に自ら背後に倒れた。カンソウはその両足を掴んで旋回し、手を放した。セーデルクが顔面から土の上を滑って行った。

「スパークの!」

 ゲイルが驚いたようにあるいは歓喜したように言った。

 会場が沸いた。

 まさか、俺に鎧を着こんだ戦士を投げ飛ばせる力があるとは思わなかった。カンソウは感激し、それを糧とした。

 立ち上がったセーデルクが獰猛な顔つきで、こちらに向かって駆けて来た。

「ロートルがアアアッ!」

 セーデルクの怒りの剣を三度避け、四度目にカンソウはその腹を蹴り倒した。油断大敵とは言うが……。

「お前が午後の戦士だと? 笑わせてくれる。お前は自分が馬鹿にしてきた年長者達には遠く及ばん。ただの餓狼にやられるほど、俺達は甘くない!」

 カンソウが剣を向けて言うと、どこからか拍手が上がった。特別席の方だろうか。しかし、そちらを見ている余裕が無いことも事実であった。

「カンソウ! 死ねやああっ!」

 セーデルクが突進してくる。

 突きを避け、背後に回り、カンソウは叫んだ。

「朧月イイイッ!」

 虚を衝かれたセーデルクが迂闊にも正面を向いたその胸に渾身の突きが炸裂した。

「ぐおっ!?」

 セーデルクがよろめく。

 審判が進み出て来る。

「カンソウの勝利!」

「師匠!」

 ゲイルが慌てて叫んだ。セーデルクが剣を振り下ろしてきたのだ。しかし、その手をミトンガントレットの頑丈な手が掴み上げた。

 セーデルクの往生際の悪さに会場からブーイングが飛んだ。久々に聴いた。

「放せ、ゲント! テメェ、俺が誰だか分かってるのか!?」

 だが、ゲントは物凄い力でセーデルクを引きずり、そのまま入り口へと消えて行ったのであった。

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