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「午前の部、観戦」

 次は俺の番だな。

 コロッセオで見物していても良かったが、ゲイルは、六勝したことをガザシーに伝えに走って行った。カンソウもゲイルの今日の頑張りを認め、午後は暇を出した。

 このまま鍛練に取り組んでも良かったが、気が進まなかった。コロッセオの前で立ち尽くし、結局、観覧席への受付の前に回っていた。

 ドラグフォージー、いや、シンヴレス皇子はどこまで勝ち抜けるのだろうか。おそらく、午前でチャンプに挑める力量を持っている限られた人物の一人だ。あとは、ヒルダかデズーカで、ガザシーやディアスは実力をまだ把握できていないので未知数である。

 各所に取り付けられた時計台の短針は十一を差すところであった。

 皇子殿下は残り一時間弱で九勝しなければならない。今頃皇子殿下を打ち負かす者などいないであろう。これが、本日最後のチャンピオン戦を懸けた戦いとなる。

 観覧席はドラグフォージーを応援する声で溢れていた。それでもこの時間で自分こそ頂点に立とうなどと夢見た選手は、意外にいる。十二時になれば午前の部は強制的に終了するというのに。しかし、そんな馬鹿な奴らのおかげで十勝と言う簡単な壁が出来るのはありがたい。十勝しなければチャンプへと挑めないからだ。

 その馬鹿どもとシンヴレス皇子の実力差は明らかであった。

 シンヴレス皇子はほぼ四手で勝負を決めていた。これを見れば、伯仲していたゲイルは余程の力量を身に着けていたことを証明する。カンソウは少しだけ鼻が高かった。

 皇子が五勝したところで、見覚えのある選手が姿を見せた。

 ゲントと、もう一人はセーデルクである。弱小のゲントが午後の戦士セーデルクと組んでいることに驚いた。

 試合に出るのはゲントの方であった。相変わらずの重厚な装備で、同じ全身甲冑のシンヴレス皇子やドラグナージークを上回る重さをしているだろう。

 セーデルクの登場に会場は沸いていた。セーデルクが選んだ相棒、ゲントはどれほどの力闘を演じてくれるのだろうか。

「第五試合、ドラグフォージー対、挑戦者ゲント、始め!」

 審判が宣言した瞬間、重たい足音が轟いた。ゲントである。ゲントが猛牛のようにドラグフォージー目掛けて駆けていた。土煙を上げる様からすれば、まさしく猛牛である。

 これを受け止めるわけにはいくまいな。

 カンソウは思わず焦っていた。

 しかし、ドラグフォージーは、逃げずに佇み、肉薄してくるゲントを待ち受けていた。

 皇子殿下はどうなさるおつもりであろうか。ドラグナージークがおそらく指示を出しているはずだ。

 そこでドラグフォージーも突然ステップを踏み、跳んだ。

 ゲントが通過して行った。ゲントは止まるのに一苦労し、セーデルクが厳しい声を上げていた。

 皇子はこれまでの戦いでこうも大胆に避ける行為を見せなかった。それだけでもゲントは勲章ものであろう。

 どんなものも跳ね飛ばす重装歩兵。しかも走れる。ゲントを下の下に見ていたが、デ・フォレストやフォーブス、そしてこの自分辺りなら負けるかもしれない。

 ゲントは向きを変え、再び駆け出した。

 しかし、ドラグフォージーは木剣を向けた。確かにゲントは一直線に来る。剣を向けて置けば突き刺さるだろう。だが、その重い身体を受け止めなければならない。ただでは済まないのだ。ドラグナージークはどうしたというのだろうか。わざわざ皇子に痛手を当てて、半ば痛み分けとも言えそうな結果にするつもりであろうか。

 ゲントが突っ込んで来る。

 そこでドラグフォージーが無謀にも手を広げ立ち塞がった。

「馬鹿な! 撥ね飛ばされるぞ!」

 カンソウは思わず声を出していた。

 ゲントと接触までの数秒にことは始まった。

 ドラグフォージーとしてもチャンピオン戦を狙わねばならない。この試合に大きく時間を割くわけにはいかないのだ。

 皇子が避けないのを見たゲントが体当たりに移った。

 その一瞬、シンヴレス皇子は、いや、ドラグフォージーはしゃがみ込み、剣を遮蔽物とした。ゲントが思わず引っ掛かる。ドラグフォージーも引っ張られそうになりながら持ち堪え、ゲントは大きくよろめいて、千鳥足のようになりながら止まったところで、急いで追いついたドラグフォージーの剣を受けた。

 セーデルクが吼えている。おそらく相棒の不甲斐無さに怒っているのだろう。セーデルク程の者が他に組める相手がいなかったのが不運だった。

 が、カンソウはゲントに対する評価を改めなければならなかった。重装の軍馬のような戦士だ。体勢を任せた体当たりに及んだのが敗因だ。あのまま突っ走っていれば、ドラグフォージーの剣を跨いで行くことも可能だったかもしれない。誘いの手を使ったドラグコンビの機転の良さが勝利を呼んだのだ。

 時間は長い針が三を差している。残り五勝すればチャンプの登場だ。勝ったり負けたりが続く午前でヴァンとウィリーを拝めるのは稀である。

 次の試合が始まろうとしていた。

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