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「決着」

 弟子の筋力がこれほどあったとはカンソウは思わなかった。そして感動する。地道な修練が実を結んだ結果だ。

 ドラグフォージーも驚いている様子であった。

「フォージー! 打ち込め!」

 セコンドのドラグナージークが声を上げる。

「ゲイル!」

 カンソウも慌てて声を上げる。

 ドラグフォージーが打ち込むより先に、ゲイルが剣を振り下ろした。

「怒羅! 怒羅! 怒羅アアアッ!」

 咆哮と共に木剣同士が固くぶつかり合う。ゲイルの乱れ打ちはしっかりドラグフォージーの下段も狙っていた。完全にゲイルが先制し、ドラグフォージーは気後れしている様子であった。しかし、いつまでもゲイルのペースが続くとは限らない。乱打は良いがその間にきっかけを掴まなければならない。

 ゲイルが剣を振るうふりをして剣を掲げ持った。

 力を溜めた大上段の一撃をゲイルは振り下ろした。

 フェイントにかかったドラグフォージーは避ける間もなく剣で受け止めた。

 今日一番の音が鳴り響いた。いずれかの木剣が圧し折れても良さそうだが、そうはならなかった。

 ゲイルは剣を蛇のように刀身同士を絡み付かせ、ドラグフォージーの顔を突こうとしたが、ドラグフォージーは、それを剣で横に払った。

「伯仲しているな」

 セコンドのドラグナージークが興味深げに言った。

 ゲイルは拳を放った。

 それを片手を広げてドラグフォージーは受け止める。そして捻じり上げようとしたが、ゲイルは素早く手を戻して、ドラグフォージーの腹部を蹴りつけた。

 よろめくドラグフォージーだが、ゲイルの突きを躱す余裕はあった。

 ゲイルは慌てて身を立て直すが、ドラグフォージーが下段から勢いよく剣を振り上げ、ゲイルの得物を打った。

 ゲイルが軽く声を出したのをカンソウは聞き逃さなかった。痺れを感じたのだろう。それは先ほどの大上段の一撃を受けた皇子も違いない。ドラグナージークの言う通り、互角だ。

 審判の指がいつの間にか四つだけ立っていた。ここで声を掛ければゲイルにとっては勝負を焦らせることになるだろうか。相手のセコンドのドラグナージークはまるで黙っていた。

 ゲイルはどうにか耐えた。剣先をぶつけて、牽制し、少し後ろに下がる。

 カンソウにとってはもう四分だが、ゲイルにとってはどうなのだろうか。そもそもこの弟子は時間を気にしているのだろうか。

 審判の指が一つ折られる。

「ゲイル! 残り、三分だ! 弱腰になるな、攻めろ!」

 カンソウはたまらず声を上げた。

 ゲイルは頷いて、ステップを踏んだ。

 上段から一撃をドラグフォージーは受け止める。その時、両者の剣が滑った。鉄ではなく木であったためだ。二人はよろめいて互いにぶつかるところを揃って避けたが、その際に両者とも斬撃をはなってよろめいて抜けていた。

 木の音が一つ鳴り、両者の場所は入れ替わった。カンソウの前にはドラグフォージーが、ドラグナージークの前にはゲイルがいる状態となった。

 カンソウは場所を変わろうと思ったがドラグナージークが動く気配が無かった。

 そうだ、離れていても声なら届く。

「フォージー、落ち着いて攻めろ!」

 ドラグナージークが声を上げる。

 審判の指は二本だけであった。つまり残り二分。なのに、落ち着けと言うのか。ここで俺なら慌てるはずだ。慌ててゲイルをけしかけるだろう。だが、ドラグナージークが言わない以上、拮抗している実力者同士の戦いは一瞬の隙で決まるものだ。

「ゲイル、焦ったら負けだ!」

 カンソウはそう叫んだ。

 その時、ゲイルが武器を片手に持ち替え、右手を後ろに回した。

 そして勢いよく右手を振り下ろした。

 燕、それは小鳥のように見えた複数の短剣だった。

 ゲイルはここでガザシーから学んだ奥の手を使った。

 そして自ら駆ける。

 ドラグフォージーは剣で正確に短剣全てを叩き落した。が、ゲイルが既に勇躍していた。

「もらったー!」

 ゲイルが剣を振り下ろした時、カンソウも勝ったと思った。

 だが、ドラグフォージーは背中から何と小盾を取り出し、ゲイルの剣を防いだ。

 カンソウも、ゲイルも観察力が足りなかった上に油断していた。小盾の存在に気付けなかった。

 薙ぎ払った小盾を返す刃の如く払い、狭い間合いの中、小盾がゲイルの顔面を真正面から打った。

「ふぎゃっ」

 ゲイルはそう悲鳴を上げていた。

 審判が駆け寄って来る。決まり手はまさかのシールドバッシュであった。

「勝者、ドラグフォージー!」

 まるで息を吞んで見入っていたのは観客達もそうであったかのように、初めて歓声が聴こえた様な気がした。

「ナイスファイト。ありがとう、ゲイル」

 ドラグフォージーがバイザーを上げて言った。

「ああ、ナイスファイト」

 鼻血を片手で押さえながらゲイルが言葉を返した。

 今回の試合は師弟共に相手の様子を深く探らなかったことが敗因だった。

「行くぞ、ゲイル」

 タオルを渡し、ゲイルはそれで鼻を押さえた。

「勝てると思ったんだけどな。もう、ここまで勝ち上がれる気がしない」

 弱気なゲイルにカンソウは言った。

「実力があるからこそ、ここまで来れたんだ。諦めない限り、いつだってお前は這い上がって来られる」

「そうだと良いけどな」

「自分を信じろ。それを裏付ける力だってお前は持っているのだ。少なくとも俺はそれを見た」

 カンソウは半ば慰めの口調で言っていた。確かに、ヒルダやデズーカとやりあってここまで来れたのだ。再びここまで来るには、また彼らと戦わねばならない。

「覚えて置け。ひた向きなのがお前の良いところだ。俺はそれに惚れたからこそお前を弟子にと選んだのだ」

「ひた向きか」

 ゲイルは遠くを見るような声で言った。

 弟子は自信を失いかけている。どうすれば良いのだろうか。

 そうして師弟は揃って試合場を後にし入り口を潜ったのであった。

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