表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/144

「秘剣対ゲイル」

 大きな大きな男が、堂々と歩んで来た。隣に並ぶ小盾の持ち主ディアスが微笑んだ。

「よぉ、カンソウに小僧」

 デズーカが気力漲る声で言った。その言葉で何となくだが、どちらがゲイルの相手になるのかカンソウには分かったような気がした。

「あんた、本当にデカいね」

「ワハハハハッ!」

 ゲイルがその巨躯を見て呆れたように言うと、デズーカは愉快そうに笑った。

「あんたが相手かい?」

「そうだ。今回は俺が相手だ」

腰の鞘に収めた木剣を叩いてデズーカが左手の親指で自らを指し示す。

すっかりデズーカも真っ直ぐな剣士になってしまったのだな。昔懐かしき荒くれ者だった友の決戦に挑む堂々たる姿を見てカンソウは嬉しかった。だが、分かっている。ゲイルが勝たねばならんのだ。

審判が中央に歩み寄り、セコンドのカンソウとディアスは離れた。

「デズーカさん、頑張って下さい!」

 ディアスが相棒に声援を送る。

「ゲイル、ヒルダとガザシーの思いも背負っているのだ、勝つしか無いぞ」

「分かってる、そしてチャンプを下して俺が新しいチャンピオンだ!」

 ゲイルが振り返らずに応じた。

 六メートルの間合いを取り、さっそくデズーカが居合の構えを見せた。

「第六試合ゲイル対、挑戦者デズーカ、始め!」

 デズーカは突っ込まない。ゲイルもまた様子を見ているようだった。

 だが、前かがみになりながら少しずつデズーカが歩み寄り始めた。試合時間は十分しかない。その現実に焦れたのはデズーカということになる。勝つ気がある証拠だ。

「ゲイル、慎重になるべきだが、試合が動かん。動かしてやれ」

 カンソウも焦れて言った。負けるよりも消極的な姿勢の方が気に食わなかった。

 ゲイルが頷き、剣を胸の前に構えて、駆けた。

 その時、デズーカの手が動いた。

「ヒケエエエン!」

 木製同士の刃と刃がぶつかり、高らかな音が響き渡る。

 ゲイルは居合を受け止めていたが、明らかに動揺していた。

「ゲイル、どうした!」

「師匠、敵の刃がまるで見えねぇ」

「勘だ。勘に頼るしかあるまい。それと、デズーカに剣を鞘に収めさせるな」

「次があればね……」

 相手を見ながら口の端を持ち上げてゲイルは苦笑いしていた。カンソウは声を掛けるべきか迷ったが、ゲイルが大きく踏み込み相手に打ち込んだのを見ていた。

「ヒケエエエン!」

 デズーカの声が轟き、刃と刃が再び激突する。驚いたのはゲイルが膂力で勝っているデズーカの一撃をしっかり受け止めたことだった。

「怒羅アアアッ!」

 ゲイルはここぞとばかりにデズーカに打ち込んだ。デズーカは剣を戻せず、俊敏なゲイルの攻撃を受け止めに回らなければならなかった。

「そうだ、手数の多さならお前が有利だ!」

 カンソウは声を上げて励ました。

「デズーカさん! 下段に気を付けて!」

 ディアスが的確に言った。

 カンソウは舌打ちをしたくなった。そうなのだ、デズーカの弱点は長い足だった。筋肉質でも、剣がそこまで伸びなければ意味が無い。

「怒羅!」

 ゲイルが打ち込んだ時、サッとデズーカは巨体を動かし、避けた。

「しまった!」

 カンソウとゲイルの声が重なった。

 再び居合の姿勢を取るデズーカを前に、ゲイルは一瞬だが審判を見た。カンソウも見た。残り六分。何と速い四分間であっただろうか。

 その時、消極姿勢だったデズーカが勇躍し、ゲイルの前に飛び降りるや、剣を放った。

「ヒケエエエン!」

 その咆哮に似合わず影のように放たれた剣をゲイルはどうにか受け止めていたが。競り合いに入り、グイグイ押され始めた。

「くそっ!」

 ゲイルが身を下げ、足払いを仕掛けた。だが、両手でもデズーカの力を抑えられず、ついには尻もちを付いて、上段のデズーカの剣を受け止めている有様であった。

 デズーカが押し、ゲイルは身動きが取れない。だが、デズーカは勝負を焦ったようで、剣を一旦振り上げた。

 その一瞬をゲイルは逃さなかった。デズーカの膂力あるとどめの一撃を後ろに前から飛び込んで避け、脛を剣で打った。

 残り時間二分であった。

「勝負あり、ゲイルの勝利!」

 審判が宣言し、観客達の声援がようやくカンソウの耳にも届いて来た。それだけ目の前の危うい試合に釘付けだったのだ。

「やるな、小僧。いや、ゲイル」

 デズーカがにこやかに言った。

「あんたがあのまま押してれば剣は折れて俺は頭を打たれていたよ」

「そうだったのか。だけど、それでも二分の間にはできなかっただろうさ。じゃあな’ゲイル、カンソウ、次の試合も頑張れよ」

 デズーカが言い、ディアスが軽く笑みを浮かべて小さく手を振り二人の選手は入り口へと戻って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ