「勝敗」
どちらともなく動き、切っ先を軽く交える。そしてヒルダが一気に突いて来た。
ゲイルは冷静に突きを返して受け止め、そこから足払いを仕掛けた。
ヒルダが後方に飛び退く、瞬間、ゲイルは一気にヒルダに体当たりをした。
ゲイルの体当たりをまともに受けたヒルダは、後方へ更に追いやられ、ゲイルはここぞとばかりに突きを放った。
届かぬだろう。カンソウはそう思い、予想通り、切っ先はヒルダには当たらなかった。
「攻めろ!」
ガザシーが声を上げる。
しかし、その声に反応したのはゲイルの方だった。惰性で踏み込むや、一気に剣を振り下ろした。両者の剣がぶつかり合う。ゲイルはここぞとばかりに乱打した。
ヒルダはそれらを受け止め、下段に剣を払う。
ゲイルは克服すべきだった下段の甘さを見抜いて剣を下げて受け止めると、旋回し、横薙ぎを払いながら、ヒルダの懐へ強引に入った。
薙ぎ払いを受け止めたヒルダだが、ゲイルの間合いから逃れるべく、離れようとしたが、ゲイルがその腕と襟首を掴んで、足を掛けヒルダを投げ飛ばした。
ヒルダは転がって起き、短剣を素早く投擲する。
カンソウの弟子は、これを首を曲げるだけで避けて見せ、一気に躍り掛かった。
「怒羅アアッ!」
勇躍しての一刀両断をヒルダは剣を両手で握って受け止めた。
そして両者は競り合い、足払いやローキック喰らわせようと躍起になっていた。
カンソウが見ると審判の指が二本だけになっていた。
「ゲイル! 時間が無いぞ!」
「ヒルダ姉ちゃんは俺の超える壁! 今日こそ絶対越えて見せる! 怒羅、怒羅、怒羅アアッ!」
ゲイルは次々剣を打ち込んだ。
ヒルダの肩が下がる。ゲイルの方が膂力で圧倒している。
ヒルダがローキックをゲイルの膝頭に入れた。しかし、ゲイルはビクともせず踏ん張り、次々ヒルダの剣を激しく叩いている。
と、一際大きく振り上げたところで、ゲイルは全力の縦の斬撃を放った。
ヒルダはこの機を逃さず、スライディングし、ゲイルの後方へ回った。
しかし、ゲイルは体勢を崩しながら、振り返り、剣を振り上げた。
「竜閃!」
跳躍したヒルダの顔面を狙った必殺の一撃をゲイルは剣を振り下ろして打ち落とした。
そしてヒルダの腹部に蹴りを入れた。
まるで迷いを振り切ったようだとカンソウは思った。ゲイルはヒルダが女性であることを今の今まで覚え、そして忘れたのだ。
ヒルダはその場に倒れて呻いた。
ゲイルが刃を突き下すと、ヒルダは目覚めたように転がって避けた。
「残り一分!」
カンソウとガザシーの声が重なり合った。
ヒルダは駆けた。ゲイルも駆けた。
両者はそのまま剣を突き出した。
場が静まり返った。
勝敗は決した。だが、どうなったのだ?
カンソウは確認に動く審判を待った。
「ゲイルの勝利!」
審判が宣言し、カンソウとガザシーはそれぞれ違った意味合いの溜息を吐いた。
カンソウは確認のために動く、ゲイルの突きがヒルダの肩を真っ直ぐ突いていた。
戦っていた二人は剣を下した。
「強くなったわね、ゲイル君」
「ありがとうヒルダ姉ちゃん」
すると、ヒルダはゲイルを抱き締めた。
「試合は続くけど頑張ってね。チャンプがあなたを待ってるわ」
ヒルダは離れ、ゲイルを見て言った。
「分かってる。チャンプ戦までいけるように頑張るよ」
ゲイルが頷くと、ヒルダは頷いた。そして試合場を去る。ガザシーが黒装束の裾をはためかせてヒルダの後に続いた。
「ヒルダを破ったな」
カンソウが言うと、ゲイルは頷いた。
「チャンプまでもう少し」
「そうだな、ヒルダとの約束を実現して見せろ」
「うん」
そうして師弟は新たな挑戦者が入場してくる様子を見たのであった。




