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「ヒルダを破れ」

 ヒルダとガザシーが現れ、ゲイルは有頂天になっている様子であった。片や越えなければいけない相手に、もう一方は惚れている相手だ。一つだけ言えるのは弟子が俄然やる気だということだ。

 ガザシーはまだ骨折が回復しないため、当然セコンドへ回る。カンソウも下がり、ヒルダが進み出る。

「ゲイル君、昨日は大活躍だったみたいね」

 ヒルダが言うと、ゲイルは嬉しそうに笑って言った。

「ありがとう。だけど、あれは引き分けともいえるし相手の勝ちだとも思えるんだ。パワーも技量もまるで違う本物の強敵だった」

「そう。でもゲイル君が勝ったおかげで、他の闘技戦士達が安心しているわ」

「え? 他の奴らが何で?」

 訳の分からないという顔のゲイルにヒルダは微笑みかけた。

「またダンハロウさんの再来かそれ以上かって思われていていたのよ」

「ダンハロウ?」

 その時、審判が焦れたように声を上げた。

「両者そのぐらいで話は良いかな? 試合を始めよう」

 ゲイルとヒルダは六メートルの仕切り板の方へとそれぞれ下がって行き、剣を抜いた。

「第五試合、ゲイル対、挑戦者ヒルダ、始め!」

 審判の声と共に両者は突撃した。

 剣を突くと見せかけて、共にスライディングしていた。二人とも驚いた顔をしていた。考えていたことは同じであった。

 場所が入れ替わるや、両者は素早く立ち上がった。

 ヒルダが短剣を一本、投擲する。

 ゲイルはそれを剣で弾き返し、横に跳んだ。

 ヒルダはゲイルの居た位置に飛び込んでおり、突きを繰り出す格好であった。

 ゲイルが剣を振るい叩き落そうとするが、ヒルダは剣を引っ込め、空振りのゲイルに上段から斬撃を放った。

 ゲイルは前によろめきながら前転し、これを避けると素早く起き上がり、剣を薙いだ。

 ヒルダが慌てて刃を避けるように後退した。

 二人はまだ呼吸こそ乱れていないが、どこか嬉しそうだった。カンソウは思う。ヒルダもまたゲイルにとっては師なのだ。自分のいない間に剣を教えたのは彼女とその夫なのだから。

「読まれているぞ」

 ガザシーが悪態を吐くように相棒のヒルダに言った。

「ええ、ガザシーさん。あなたも腕が治ったらゲイル君と手合わせしてみれば良いわ。とても以前のゲイル君とは思えないほど、動きが良いから」

 ヒルダが、前を向いたままセコンドの相棒に返答した。

 確かにヒルダの言う通り、ゲイルの動きは良い。武器である俊敏さを十分に発揮しているばかりか、剣の読みも速い。カンソウはゲイルにかけるべき言葉を探したが今はまだ見つからなかった。

 ヒルダが左手に投擲用の短剣を腰から引き抜いた。

 ゲイルは跳躍した。

「馬鹿者!」

 カンソウは慌てて叫んだ。これでは良い的ではないか。

 ヒルダが短剣を投げつける。その短剣を短剣が撃ち落とす。

 そして目を見開き防御の姿勢を取ったヒルダ目掛けてゲイルは上段から一刀両断を放った。

「怒羅アアッ!」

 ヒルダの姿勢がだんだん崩れ沈んで行く。ゲイルの方が腕力が勝っているのだ。

「ヒルダ! まだやれることはあるはずだ!」

 ガザシーが必死な声で叫んだ。

 途端にヒルダの身体がスッと下がり、スライディングしてゲイルの後方に回った。そして跳躍せずに剣を薙いだ。

「竜閃!」

 だが、驚いたことが起きた。ゲイルは背を向けたまま剣だけ回して必殺の一撃を受け止めたのだ。

 そしてゲイルはヒルダを振り返る。

「自分でも驚いた」

 二人の剣士はそこで仕切り直しとばかりに得物の切っ先を向け合い佇んでいた。

 審判の手の指は左が下され、右手が親指だけ閉じられていた。残り時間四分ということだ。

 互いに動きを武器にする二人が積極的に打ち合わねば試合は引き分けに終わるだろう。カンソウは冷静に二人の剣士の対峙する様を見詰めていた。

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