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「ゲイル対スパーク」

 朝の鍛練もそこそこに二人は早くにコロッセオに出向いた。しかし、混み合っていた。これを見越しての早出だったというのに、選手も観客も列を作っている。カンソウは内心焦り毒づいていた。

 お前らではスパークに勝ちを献上するようなものだ。それが分からないのか。

「師匠。もしスパーク達が先に入っていたら……」

「ああ、お前の思う通りだ」

 奴らがチャンプを打ち負かせるかは分からないが、何故か、打ち負かせられるような気がしてならない。コロッセオはその日のチャンプが決まれば終了する。そういうルールであった。そしてチャンプと戦うためには十連勝しなければならない。万全な態勢で試合ができなくなるということだ。

 自分達の番がようやく回ってきたので馴染みの受付嬢にスパークらが既に受付を済ませたか尋ねた。

「ええ、先ほど」

「何てことだ!」

 カンソウとゲイルはそれでも武器を預けた。

 案内嬢が出て来る。幸いジェーンであった。

「二人ともいつに無く気が立ってるわね。ゲイル君も」

「それはね、ジェーンお姉ちゃん、俺達が倒さなきゃならない相手がとっくに受付を済ませちゃったからだよ」

「今日はみんな、そういうわね」

「そうだよ、闘技戦士なんだもん。武器を使わない相手にチャンプになられたら」

「それ以上は、あなたの口から言ってはいけないわ」

 ジェーンが優しくたしなめた。

「でも!」

「さぁ、武器を選んで」

 ジェーンが急かすように言い、師弟は揃って籠の木剣の検分に当たった。

 扉が叩かれ、ジェーンの同僚が姿を見せる。

「ジェーン、次よ」

 ジェーンは頷いて、カンソウとゲイルを見た。

「二人とも頑張ってね」

「おう! 任せてよ!」

 ゲイルがカンソウの分まで返事を搔っ攫って行ったような気もし、カンソウは頷くだけで済ませた。

「スパークかな? スパークなら良いな」

「まぁ、まずは奴らだろう。チャンピオン戦にもなっていないのだ。奴らが何連勝かし、俺達を次なる獲物として待っているのだろう」

「必ず、勝つ」

 ゲイルがそう言い、二人は薄暗い回廊を抜けて、陽光の支配する試合場へと足を踏み入れた。

 中央に歩んで行くと、上半身裸のスパークが待っていた。相棒の方は既に下がっていたが言った。

「スパーク、コロッセオ連中はもう誰彼構わず弱者を送り込んできているようだな」

「ハハハッ、その通りだ、ボルトよ」

 そしてスパークはこちらを指さした。

「三分で片づけてやる」

「舐めんなよ」

 ゲイルが言い返すと、審判がカンソウに下がる様に言ってきた。

「ゲイル、夢中になるのは良いが、自分を見失うな」

「そうするのは師匠の役目でしょう」

 弟子が振り返った。カンソウは仕方なしに頷いた。

 スパークが含み笑いをする。

「そうか、師匠と弟子か。だが、どちらもまだまだ小物と見た。小物の師に何を教わったのか、楽しみではあるな」

 審判が注意した。挑発行為のことでは無く、喋り過ぎて試合開始が遅れていることを危惧してのことだ。

 カンソウは見た。ボルトと呼ばれたセコンドは両手持ちの木剣を握ってはいるが、スパークはやはり無手であった。両腕を上げ、組合に持って行こうとするかのように身構えている。

 ゲイルは木剣を正面に向けた。

 六メートルの間合いが近いのか遠いのか、カンソウは初めて分からなくなった。

「では、七回戦、スパーク対、挑戦者ゲイル、始め!」

「怒羅アアアアッ!」

「うおおおっ!」

 両者が揃って突撃した。

 一瞬でゲイルの突きを躱し、スパークは横からゲイルを掴み上げると、持ち上げ、地面に叩き落とした。

 ゲイルが呻く。

「ゲイル! 立て! 何のために俺達がここに来たか、忘れたか!?」

 カンソウが呼びかけると、ゲイルは身を転がせて立ち上がった。

「どうした、小僧、そんな放れた位置で。俺が怖いか?」

 スパークの挑発にボルトが哄笑する。

「まだまだ!」

 ゲイルは地を蹴った。

 そしてスパークの手を掻い潜り、スライディングして後ろに回り込み跳躍した。

「竜閃!」

 頭を狙った素早い薙ぎ払いだったが、スパークは身を避けて、口元の笑みを引っ込めた。

「コロッセオ連中の中で、今まで一番驚かせてくれたのはお前だ、小僧。名誉に思え、そして死ね!」

 スパークがゲイルに向かって身を起こし拳を放った。

 ゲイルは避けたが、それがスパークの狙いだったのかもしれない。乱れ飛ぶ拳。ゲイルもフレデリックの有様を見て恐ろしさは心得ていた様で、回避に入る。

 だが、師弟揃って分かっているだろう。どう、反撃に移るべきか。そのきっかけをどう掴むか。

 その時、一つ、大きな音が鳴り響き、ゲイルが吹き飛んだ。

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