「弟子の思い」
あれからカンソウとゲイルは偶然、食事処竜の糞でデ・フォレスト、フォーブス組にバッタリでくわした。
「ま、誰がチャンプになろうが構わない。五回戦ぐらい突破出来て賞金さえ貰えれば俺としては言うこと無しだからな」
まだまだ若いデ・フォレストがそう言い、酒を呷ると、フォーブスが溜息を吐いた。
「今回ばかりは俺もデ・フォレストに賛成だ。チームサンダーボルトは最強のレスラーだからだ」
カンソウと同い年ぐらいのフォーブスも弱気な口調で言った。
「俺は格闘技では食えなくなってきた。だからレスラーを辞めて、コロッセオに移って来たが、奴らはそうではないだろう。世界中の戦いの場という場の覇者となる野望のために戦っている連中だ。有名な道場も高名な私塾も、どれほど奴らのために看板を持って行かれたか分からん」
カンソウはこの二人がコロッセオの名誉を守るために戦うという気概が無いのを見て残念に思った。だが、それをゲイルが代弁した。
「いいよ、あんたらが立ち向かわなくても俺が行くから」
少年の決然とした言葉に、デ・フォレストが大笑いし、腹を抱えて転がった。他の客達が怪訝そうに見つめる中、デ・フォレストは言った。
「まぁ、勝手にやられて恥を掻いて来い」
「師匠、行こう。帰って特訓だ」
「幸運を祈る」
フォーブスの言葉を背に師弟は店を後にした。
2
実際、勝てるのだろうか。俺で。奴らに貴重な一勝を献上してしまうのでは無いだろうか。
カンソウが悩んでいるとゲイルが思い掛けないことを言った。
「明日の試合、出るのは俺だから」
「馬鹿を言え! お前が出たところで」
と言ったところで言葉を飲んだ。俺が出ても同じだ。弟子は口には出さないがそう思っている。そして自らの可能性に懸けたいのだろう。
「少し考えさせてくれ」
「そんな暇はないよ。俺が出て奴らを打ちのめす」
弟子の目は笑っていなかった。確固たる意志が漲り、師に訴えている。
フレデリックの仇を取るならカンソウが出るのが筋というものだ。
「どっちが出てもフレデリックやウォーさんの仇討ちには変わらない。だって俺らもチーム、一心同体だろう?」
弟子の言葉に虚を衝かれた気分だった。チームか。確かにそうだ。ゲイルがここまで燃えているのに、俺は考え込んでしまっている。この差で既にどちらが出るのが相応しいのか分かったようなものだ。
「良いだろう、お前に任せる」
カンソウは頷いた。
「よし、そうとなったら師匠、模擬戦だ」
弟子の魂は闘魂となって燃え上がっている。世話になったウォーがやられたからだろうか。それとも打倒としていたフレデリックの散り様に何か思うところがあったのだろうか。それは分からない。
カンソウは剣を抜き、弟子と向かい合った。
「奴らの拳に追いつかぬが、打ち合うぞ。ゲイル、目の前のことばかりに気を取られ、下段が手薄であることを忘れるな」
「分かったよ、師匠」
「では、行くぞ」
こうして明日、チームサンダーボルトの野望を打ち砕くため、こちらもまた身の丈には合わない野望だが、カンソウはゲイルと剣を交え、決戦に備えたのであった。




