「フレデリック対スパーク」
審判が困惑気味にスパークに折れてはいるが剣は取らないのかと訊いている。
スパークは大笑いし、必要無いという。だが、審判は食い下がる。何故なら、これは剣士の試合だからだ。あまりにも審判がうるさく思ったのか、スパークは言った。
「必要なら自分で手に入れる。戦場でもそうやって来た」
審判は諦め、フレデリックとスパークを交互に見て宣言した。
「第三回戦、スパーク対、挑戦者フレデリック、始め!」
フレデリックは剣先を向け、ゆっくり間合いを詰めようとしたが、スパークがまた猛牛のように駆け出し、突っ込んで来た。
フレデリックの突きを掻い潜り、胴を背後から掴み、高々と持ち上げ、ウォーをそうしたように地面に叩きつけた。
プリガンダインの表面は革だが、内側は鉄で覆われている。だが、あの午後の中核ウォーでさえ、気を失うほどだったのだ。カンソウは友がすぐに立ち上がることを願った。
フレデリックは転がって勢い良く起きたが、既にスパークは駆け出していた。どう攻めるのかまるで分からない。一つ分かったのは、疑惑として、スパークらは格闘戦士だったのだろう。ということまでだった。フォーブスが何か知っているかもしれない。
フレデリックが横薙ぎするよりも速く、その太い腕がフレデリックの首に激突した。
フレデリックは転倒した。
セコンドのマルコがフレデリックが気を失わないように必死に呼びかけている。反対にスパークのセコンド、こちらも身の大きながっしりした体格の戦士がスパークをけしかけている。
倒れたフレデリックをスパークは足蹴にしようとした。だが、それがフレデリックの実力を侮った行為であることを誰もがこの後に気付くことになる。
フレデリックは転がって立ち上がると、スパークの懐に飛び込み、首を掴んで背負い投げを決めた。
会場がフレデリックコールに沸く。
「師匠、今のは絶好の好機だった。フレデリックは何で敵を剣で突かなかったんだい?」
ゲイルがこちらを見ていた。
「スパークは恐ろしくタフな奴だとフレデリックは考えたのだろう。いきなり必殺の突きを出せば、相手もそれに合わせて動くようになる。まずは弱らせるしか無いということだ」
十分間の時間は九分を切っていた。審判の両手の平から右手の親指が折られていた。
スパークは立ち上がると、フレデリック目掛けてスライディングをした。そう見えた。だが避けようとしたフレデリックの下顎目掛けて、頭突きが走った。
ただの頭突きではなかったはずだ。練達した格闘戦士の一撃だ。その重さは計り知れない。それを示すかのようにフレデリックは空中に浮き、尻もちをついた。
「フレデリック! 来るぞ!」
セコンドのマルコが叫ぶ。フレデリックは朦朧としながら立ち上がっている様子であっ
た。
「これでは駄目だ」
カンソウは思わず歯噛みした。
スパークが近付き、次の瞬間拳を繰り出した。それは拳の乱れ打ちであった。顔面目掛けて繰り出されるそれは時に兜も叩き音を上げた。
一方的な異種的な格闘戦士のやり方に、観客達は不満の声を上げていた。剣で戦えと何度
も何度もそんな声が轟いた。
スパークもそのセコンドも高笑いを重ね、それは正に反逆者であり悪魔の哄笑そのもの
であった。
拳が一旦止み、フレデリックはフラフラの状態であった。そこへスパークが力を溜めた
拳を放つ。決まったかに思えたが、フレデリックはまるで生き返ったようにひらりと動き身
を沈めて剣を薙いだ。
その一撃がスパークの太ももを打ち、どうにか勝敗は決した。
「フレデリックの勝利!」
会場が大いに沸いた。観客も剣を持たぬ者相手に敗れたとなると、戦士の分身として誇りが許さなかったのだろう。
腿を打たれたスパーク組は負けたというのにまるでつまらなそうに去って行った。
そしてその一方でマルコの肩に担がれ、引きずられるようにフレデリックも会場をあとにした。
この部屋を借りるのならば全ての試合を観るのが一般的だが、カンソウは医務室目掛けて廊下へ飛び出して行ったのであった。




