「対ヒルダ、ガザシー組」
二回戦突破。弟子は予想以上に力をつけ、技術を磨いた。頭も使っている。カンソウは上機嫌になりそうな自分に気付いたが、次の相手を見て、少しだけ嫌な予感がした。
クロースというゲイルと同じ動きやすい布鎧に身を包んだヒルダと、おそらくその右腕のケガではセコンドだろうと思われるガザシーが姿を見せたのだ。
「ガザシーさん! ヒルダ姉ちゃん!」
ゲイルは浮き浮きの様子で二人と対面した。
「競技中よ、ゲイル君」
ヒルダが諭すと、ゲイルは駆け出していた足を止め、自分の位置に戻った。
ゲイルは深呼吸を繰り返していた。その様子を見兼ね、カンソウは声を掛けた。
「ゲイル、無様に負けようが構わない。全力で行け。今の目標はヒルダを越えることなのだからな」
「オーケー、師匠」
ゲイルは身体をほぐすようにその場で跳ねている。審判は慣れたもので、そのままセコンドのルールについて説明していた。そして審判の話が終わると、ゲイルは体勢を低く、身構えた。
向こう側はガザシーが下がり、ヒルダが残った。
「第三試合、ゲイル対、挑戦者ヒルダ、始め!」
「怒羅アアアアッ!」
試合開始と共にゲイルが一直線に突撃する。剣を横から大きく振るいヒルダの懐へ潜り込もうとした。
だが、斬撃を軽々受け止められ、続くはずの掌底をゲイルはせず、相手と競り合いの道を選んだ。
両者は押し合っていた。弟子の腕の筋力と下半身の安定感にカンソウは感心した。
「圧せ!」
ガザシーが言葉少なに檄を送ったのが意外だった。いや、彼女は今はお金を稼げない状況なのだ。ヒルダに勝ってもらわないと困るということだろう。
その時、事態が動きを見せた。ゲイルとヒルダが共にスライディングして相手の背後へ回ったのだ。驚きを隠せなかった二人は、立ち上がって、しばし見詰め合っていた。
ゲイルの戦い方はヒルダ流の方が近い。カンソウが教えたのは基礎ばかりであった。そのことに今更気付かされた。奥義も無い自分が少し恥ずかしかった。
「ゲイル!」
カンソウが呼ぶとゲイルは慌てて斬りかかって行った。
木剣同士のぶつかる甲高い音が轟く。
「怒羅! 怒羅! 怒羅! 怒羅アアアッ!」
ゲイルが乱打に入った。流れを自分に寄せるためだろう。だが、ヒルダに通用するであろうか。
カンソウの予想通り、ヒルダはゲイルのペースには乗らなかった。素早く後方に距離を置きつつ、いつの間にやら短剣を投擲してきた。
ゲイルは自ら突進しつつ、顔面を正確に狙った短剣を弾き返した。
カンソウには分かったが、ゲイルにはこの一瞬の隙がまだまだ理解できていないようだった。
既にヒルダはゲイルの懐に居り、驚愕する少年の顎に剣の持ち手の先端で殴りつけた。
「ぐっ!」
ゲイルが仰け反る。
「ゲイル! しっかりしろ! 後ろだ!」
その頃には既にヒルダは身を低くし、ゲイルの背に回り、跳躍していた。
「これまでか」
「竜閃!」
鋭い横薙ぎがゲイルの頭部を強かに打った。
ゲイルはよろめいてうつ伏せに倒れた。
会場が静まり返る。というよりも、今の今まで客の声まで意識していなかった。
「勝者、ヒルダ!」
無数の声が重なり合い、勝利者を祝福する。
「ゲイル君!」
「止めろ。それはお前の役目ではない」
ヒルダがゲイルに駆け寄ろうとしたが口を挟んだガザシーの言葉と共に足を止めた。
「そうだな、それは俺の役目だ」
カンソウは歩み寄るとのびてしまった弟子を抱え上げた。
「次は我々が勝利する」
カンソウはヒルダとガザシーに言うと、そのまま医務室へと歩んで行った。




