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「盾と剣」

「よう、カンソウ」

 巨躯の男が言った。

 デズーカの隣には一人の青年が立っていた。小盾を左の手に、右には長剣を掴んでいた。

「デケェ」

 ゲイルがデズーカを見上げて恐れ入ったように感嘆の息を漏らす。

 デズーカに見入っている弟子とは違い、カンソウは相手の相方の様子を見た。身長はさほど高くはない。生真面目な顔をし、装備を見せているところからすれば、彼が戦うのだろう。

 盾か。どんな戦いをするのだろうか。

 審判が歩んできて、セコンドの位置と失格について説明した。そうしてカンソウとデズーカはゆっくりと相棒から距離を取った。

「ディアス、油断するなよ、普段通りやればお前の勝ちだ!」

 デズーカが声援を送る。

 ゲイルがこちらを振り返った。弟子も初めての盾持つ相手に戸惑いを隠せないようだ。カンソウは様子を見ろとは言わなかった。ただ頷くだけで終わった。全力で挑めば良い。お前にはまだまだ未来があるのだから、負ければ振り返り、反省し、次に生かせば良いだけのことだ。

「第二試合、ゲイル対、挑戦者ディアス、始め!」

 さっそくディアスが身構えた。左手の小盾を前に突き出し、右に左にゆっくり動いている。カンソウはその消極的な様子から見抜いた。相手は盾を囮に使っている。ゲイルが引っ掛からなければおそらく戦いは始まらない。

 ゲイルは指示を仰いでくるかとも思ったが、そんなことはなかった。彼は突進して行った。

 ゲイルが斬りかかればディアスは盾を差し向ける。ゲイルの剣が盾を打った瞬間だった。凄まじく素早い動きでディアスが斬り付けて来た。ゲイルは泡を食いながらそれを避けた。

 カンソウもこれで確信が持てた。

「ゲイル、気付いていると思うが、相手はカウンターを狙っているぞ」

 すると、ゲイルが振り返った。

「でも、攻撃を仕掛けないと! 時間が!」

「その通りだ、だが、決して猪突猛進では行くな」

「了解師匠」

 ディアスは再び小盾、バックラーを差し向けている。

 弟子はゆっくり歩み寄ったかと思うと、一気に地を蹴った。

「怒羅アッ!」

 ゲイルの斬撃を盾で受け止めたディアスは素早い反応で剣を振り下ろした。

 ゲイルはそれをスラディングして躱し相手の背後に回った。

「ディアス!」

 ヒルダ流の特技を知っているデズーカが声を上げた。

 ゲイルは背後で跳び上がり、剣を薙いだ。

「竜閃!」

 だが、カンソウはディアスを侮っていたことを思い知らされた。ディアスは旋回し、斬撃を盾の横薙ぎ、つまりはシールドバッシュで弾き返した。その衝撃音が凄まじく、ゲイルの身体が流れた。

「いかん!」

「今だ!」

 セコンド同士が叫ぶ。

 ディアスの剣が縦に振り下ろされる。

 しかし、機敏さで勝っていたゲイルはそれを避け、ディアスを乱打戦に引きずり込んだ。

「怒羅! 怒羅! 怒羅! 怒羅アッ!」

 あらゆる方角から狙うゲイルだが、ディアスは、盾と剣で懸命に打ち返し、受け止め、ついてきている。

 やはり筋力か。ゲイルの技は速いが軽い。そして連続で動く度に腕も身体も剣も疲弊してゆく。まだ二回戦なのだ。

「ゲイル!」

 カンソウが名を呼ぶと、ゲイルも分かったらしく、後ろへ跳んだ。そこにディアスが盾を突き出した。

 ゲイルはそのわきを抜け、屈んで疾走し、剣を繰り出そうとする。ディアスが慌てて剣を振るうが、暴風のような一撃をゲイルは前に転がって避け、立ち上がると、ディアスの下顎に掌底をぶつけた。

 まともに喰らったディアスが体勢を崩す!

「ディアス!」

 デズーカが叫ぶ。

 ゲイルは体当たりし、ディアスが更に仰け反るところへ追いつき、突きを放った。

 しかし、ディアスはまるで身体が覚えているかのように盾を出し、ゲイルの攻撃を受け止める。

 だが、決死の反撃も終わりだろう。カンソウはそう思った。

「怒羅アアアッ!」

 ゲイルは執拗に盾を打った。瞬間、鈍い音を立てて木の盾が割れた。

「ディアス、来るぞ!」

 ディアスは剣を振るうので精一杯の様子だった。焦って見境なく振るった剣が当たるわけもなく。避けたゲイルがディアスの胴を打っていた。

 プリガンダインに木剣の筋が付く。

「そこまで!」

 審判が声を上げて寄って来た。

 そしてゲイルを見て宣言した。

「勝者ゲイル!」

 歓声が上がった。

「盾を木剣で壊すなんて、思いもしなかったぜ」

 デズーカが言った。

「たぶん、それ新品の盾じゃないよ。戦っててヒビがあるのを見えたから」

「おい、ディアスぅ」

 デズーカが負けた相棒を振り返るとディアスは苦笑いしていた。

「武器や防具を見る目をもう少し磨くことにするよ」

 ディアスが応じた。

「じゃあな、カンソウとその弟子。次の試合も頑張れよ」

 敗者であるデズーカが言い、ディアスは一礼して、それぞれ会場を後にした。

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