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「試合」

 受付をする。カンソウ、ゲイル、それぞれ武器を預け、二人揃って、ジェーンに案内された。

「師弟で組めて本当に良かったわ」

 ジェーンが微笑んで薄暗い回廊にある壁と一体になったような扉を開く。

「俺も師匠も弱いけど、弱いなりに頑張るよ」

 ゲイルが言い、カンソウは少しだけ恥ずかしく思った。よりによってジェーンの前で言って欲しいセリフでは無かった。

「駄目よ、ゲイル君、もっと強気で行かなきゃ。みんな勝ちたいと思ってるし、勝つつもりで挑むのだから。気後れしちゃうわよ」

 ジェーンが諭す。ゲイルは少年ながら苦笑いを浮かべ、籠の中の木剣を漁り始めた。

 ジェーンがゲイルのことを見ていて、そのジェーンの横顔をカンソウはいつの間にか見ていた。

 ジェーンがこちらに気付き、カンソウは目のやり場に困った。ゲイルはグリップの安定感を試すために夢中で木剣を選んでいる。

「私にも弟がいるの」

 ジェーンが言った。

「そうなのか」

 カンソウはどう言葉を返していいか逡巡しながら応じた。だが、ジェーンが喋ろうとしているのは分かった。

「弟は故郷にいるのか?」

「いいえ、あんな散々な陰気臭い田舎なんか出て行ったわ。だから安心したわ」

 ジェーンは軽く天井を眺めやり、そしてカンソウを振り返った。

「弟は今、闘技戦士をしているの。だけど、私のことはすっかり忘れちゃったみたい。そうよね、あんなところに一人で残して出て行っちゃったんだもの、竜の神様の御仕打ちも仕方が無いわ」

 カンソウは深入りしようか考えた。同じ闘技戦士ならば力になれるかもしれないと思い、言った。

「弟の名前は?」

 ジェーンが時間を掛けてその問いに答えようとした時に、ゲイルが剣を取り出した。

「これならいけそうだ。師匠も選びなよ」

「ああ、分かった」

 ジェーンの方は軽く微笑んで、もうこれ以上話す気は無いと言っている表情であった。

 カンソウも剣を選ぶと、扉が叩かれ、ジェーンの同僚が顔を出した。

「カンソウさん、ゲイル君、次出番よ」

「よっしゃ師匠、そのセコンドってやつで盛り上げてくれよ」

「自分で考えて動け、馬鹿者目」

 カンソウは最後にもう一度ジェーンを振り返ったが、彼女は胸の辺りで手を振って応じただけであった。

 ジェーンは弟と再会したいのだ。しかし、誰がジェーンの弟だろうか。歳の差ぐらい聞くべきだったか。

 カンソウとゲイルは並んで薄暗い回廊を行き、波のように沸く観客の声を聴きつけた。

「行こうぜ、師匠」

「ああ」

 カンソウも初めてのセコンド役に若干緊張し、ジェーンの弟のことなど忘れてしまっていた。

 陽光の祝福と共に、三人の人影が中央付近に立っていた。

 一人は審判。残りは相手だ。

「お、カンソウか。ロートルが、時代がお前をお呼びじゃないってことを教えてやるぜ」

 デ・フォレストが言った。相方はフォーブスである。カンソウは一度、フォーブスに敗退しているが、勝てない相手では無いと思っていた。

 しかし、フォーブスが下がり、相手がデ・フォレストだと分かった。

「あんたこそ、お呼びじゃないってことを教えてやるよ」

 ゲイルが進み出た。

 審判が咳払いし告げた。

「セコンドは選手の二メートル内に入ってはいけない。入れば失格とする」

 相手組は既に知っているのだが、フォーブスは改めて頷いた。歳も近く、得物も同じ。カンソウは少しだけフォーブスが気に入った。少しだけだ。

 カンソウがフォーブスを真似て下がると、六メートルでの仕切り板の前にそれぞれゲイルと、デ・フォレストが並んだ。

 どちらもやる気十分であった。

「では、三回戦、デ・フォレスト対、挑戦者ゲイル、始め!」

 審判の宣言と共に二つの若い咆哮がそれぞれ上がり、互いにぶつかり合った。

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