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「新しい試み」

 横薙ぎ、ゲントはこれをガッチリと剣で受け止める。掌底が飛ぶがゲントの鉄仮面にはまるで効いていない。客席からカンソウは、ゲイルにこれ以上、ゲイルラッシュに躍起になるのは止めた方が良いと、声を掛けたい衝動に駆られた。

 足払いも重たい装備に身を包んだゲントには通用せず、ゲイルはこの試合を敗北で終えた。

「あんなに練習したのに」

「相手が悪かった。あんな重装備ではお前の拳など猫の拳のようなものだろう」

「でも、前は足払いが効いたぜ?」

「それだけ相手も弱点に気付き克服しているということだ」

「というか、ヒルダ姉ちゃんぐらいじゃない、軽い装備してるのって」

「愛しのガザシーは良いのか?」

「そうだ、ガザシーさんもだった」

 師弟がコロッセオを去ろうとした時、前方からプラカードを持った男がコロッセオの前に辿り着いた。

 師弟は顔を見合わせ、共に訝しんだが、プラカードを見た闘技戦士達が俄に騒ぎ始めたので見に行くべきだろうと弟子に目配せし、二人は人だかりの間を抜けた。

 男が地面に立てたプラカードにはこう書かれていた。

 セコンドシステム導入。

 ゲイルがプラカードの男に話しかけたが、男はムッツリと黙ったままであった。

 他の者と場所を交代し、カンソウはこれは良いかもしれないと思った。

「ねぇ、師匠、セコンドって何だ?」

「介添え人だ。元々は格闘技の試合で使っているシステムだが、つまり、戦っている仲間に対してリング、いや、会場の傍から指示やアドバイス、応援などができるシステムだ」

「応援団だね、だったら師匠とガザシーさんとヒルダ姉ちゃんと」

「セコンドは一人だろうな」

「そうなの?」

「まぁ、誰を選ぶかはお前に任せる」

 するとゲイルは顔を真面目なものに変えた。

「そんなの師匠一択だ」

 カンソウは嬉しかった。弟子の肩に手を置くと、あちこちでセコンドの取り合いが始まっていた。

 しかし、世の中、そう上手くいくものでは無かった。



 2



 夜が明け、師弟は鍛練を共にした。そうしてコロッセオへ赴くと、昨日は無かった立て看板があった。

 その周囲にいる闘技戦士達が複雑そうな顔を見合わせ、中には受付に怒鳴り込んでいる者もいた。カンソウは受付嬢を助けるために選手と受付口の間に割り込んだ。

「そうカッカするな」

 怒鳴り込んでいたのは以前戦って勝ったデ・フォレストであった。フォーブスが困ったように彼を見ていた。

「運営委員会で、そういう決まりになりましたので」

 と、対応しているのは優しそうな青年であった。が、カンソウは見覚えがあった。かつてダンハロウと言うデズーカの師匠を破ろうとしていた者達の卑怯を叱り、嘆いていた男であった。

「シンヴレス皇子殿下?」

 カンソウが問うと、青年はニッコリした。

「あなたはカンソウさん。覚えています」

 カンソウは慌ててデ・フォレストの襟首を掴んで、相棒と思われるフォーブスへ送り返した。

「カンソウ、弱者のロートルが! テメェ、何しやがる!」

 デ・フォレストが喚き散らした。

「皇子殿下であることは明かさないのですか?」

 声を潜めてシンヴレスに問うと、皇子は動じた様子もなく頷いた。

「怒って当たり前かもしれないので」

「ねぇ、何を話してるんだい?」

 ゲイルが隣から話しかけて来た。複雑そうな顔をする外の戦士達に、怒り心頭のデ・フォレスト。それを止めないフォーブス。新ルール、セコンドについて不利益なことがあるのだな。カンソウはそう察した。

「セコンドのことで、奴は怒ってるのですか?」

「そうですね」

 皇子は申し訳なさそうに口を開いて続けた。

「新ルール、セコンドには、セコンドに着いた選手のその日の試合出場権が無くなるというものになりました」

 なるほど、それは酷い。

「それって、例えば俺の師匠がセコンドってのになったら、師匠はその日試合ができなくなるってこと?」

 意外にもゲイルがまともなことを言った。いや、言って当たり前なのだ。自分達の生活がかかっているのだから。

「そうだね」

 シンヴレス皇子は頷いた。

「賞金はどうなるの?」

「そこは勝てば二人分出るよ」

 シンヴレス皇子が言った。

「ふーん、じゃあ、別に良いんじゃない? 勝てば良いだけの話だし。試合も盛り上がる」

 間抜けなのか真面目なのか、自信過剰なのか。ゲイルは意外にもあっさり新ルールを受け入れた。

「君、名前は?」

「ゲイル。あんたは?」

「こら、この愚か者!」

 カンソウが思わず弟子の頭に拳骨を落としそうになるのを皇子が素早い動作で身を乗り出し拳を掴んだ。

「良いんですよ、カンソウさん。僕はドラグフォージーだ。君と戦える時を楽しみにしているよ」

 皇子は偽名を名乗ると微笑んで、次の困惑する選手の対応に回ったのであった。

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