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「三人」

 弟子は次の試合でも俊敏さを発揮し、動きも技もキレが良かった。相手を圧倒し、勝利を掴んだが、その次の試合では、体力が底を尽いたのが明らかで、試合らしい試合にはならなかった。

 カンソウは自分がまだ師であるかどうか自信が無かったが、ゲイルを迎えに観覧席を立った。

 少しするとゲイルが息を喘がせながら受付に戻って来た。預けた武器と賞金を手にして、弟子はこちらを見て言った。

「師匠、体力だ」

「そうだな」

 とは答えるが、カンソウ自身も体力の鍛練を疎かにしていた。まず、弟子の方が自分より体力があるのは間違いないだろう。

 しかし、カンソウは先ほど観客達から受けた祝福の声を思い出した。

 どんなに無様でも良い、観客の声援に応えたい。

「町を走るぞ」

「分かった」

 こうしてカンソウは弟子とともに、多くが観客席へと引き込まれ、静かな町の通りを掛け始めた。



 2



 駆けながら、並んでいた弟子との差がすぐに開いてきた。こうなれば弟子が走るがままに方角を任せるしかない。

 時折巡回の衛兵らの隣を抜けて師弟は駆けた。

 ゲイルがその場で足踏みし、こちらが追い付くのを待っていてくれた。

「ちょっと寄り道して行っても良いかな?」

「好きにしろ」

 見通しの良い石畳の道を行くと、そこには宿があった。二階建てで大きな宿であった。

 ゲイルはその裏側へ回り込んだ。

 カンソウが続くが井戸があるだけであった。

「あれぇ」

 ゲイルが当惑したような声を出す。

 その時、カンソウは宿の屋根を振り返った。

 一つの影がこちらを見ていた。気付けない弟子にカンソウは仕方の無さを覚えて、声をかけた。

「お前の探している人物はあれか?」

「あ、ガザシーさん!」

 振り返り、相手の姿を確認したゲイルは声を上げて手を振った。

 その手に向かって飛んできた一条の刃をゲイルは慌てて剣を抜き様、弾き返した。

 何と、あんな距離から正確に。

 カンソウは、瞠目した。

「この間、渡せなかった、謝礼金持ってきたよ!」

 ガザシーは降りて来ない。

「ガザシーさん、俺達、今、体力をつけるために町中走ってるんだ。良かったら一緒にどう!?」

 ゲイルが声を掛けると、ガザシーは一階の屋根から飛び降りた。

 黒装束が綺麗な顔を黒頭巾で覆い、歩んで来た。

「これは技を教えてくれた謝礼金」

 ゲイルが渡すと、ガザシーはゆったりとした袖を垂らし手を出して受け取った。

「それでどう? 走ることぐらいならできるでしょう」

 ガザシーは答えない。立ち尽くしゲイルを見下ろしている。その目がカンソウに向けられた。弟子の恋する人物だ。俺が居ては逢引の邪魔になるだろう。

「俺は一足先に戻る」

「ええ、駄目だよ、師匠も居なきゃ」

「何故だ?」

「ガザシーさんが言っていたんだよ、お前の師は弱いって。そうじゃないところ見せつけなきゃ俺の気が収まらないの。ほら、技ばっかり磨いていても体力は落ちる一方だよ。俺達と走ろう、ガザシーさん」

 ゲイルが言うと、未だに首から白い布をぶら下げ右腕の骨折の身であるガザシーは、溜息を吐いた。

「分かった、走る」

「やったぁ!」

 ゲイルが声を上げる。

「だが、そのロートルに合わせる気はない」

 言ってくれるな、確かにそうだが。

「うん、走ろう!」

 ゲイルが駆け、ガザシーが続き、カンソウはもうひと踏ん張りと自らの誇りと気力にむち打ち二人の後に続いたのであった。

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