「午後の試合観戦」
カンソウは本物の殺戮の行われた場数を踏んだことだけが今では残された誇りであった。だが、そんなものは過去の栄光そのものだ。かつては午後クラスで二勝以上できたこともあったが、それこそが思い上がりだと感じた。
ガザシーのところから帰って来たゲイルを見て、カンソウは言った。
「どうだ、戦友になれそうな奴は見つかったか?」
「よく分からないな。だってみんな、大人なんだもん」
確かにそうか。
「鍛練は順調か?」
「うん、基礎は繰り返しやってる」
なら良い。
カンソウは頷いて、素振りを始めた。上から下へ、鉄の剣が振り下ろされる。良い音を出して風を切っていた。
ゲイルが隣に並んだ。
「怒羅ぁっ!」
気合の声と共に剣が振り下ろされる。以前より切れが良くなったとカンソウは思った。着実に弟子には筋肉がついている。見えないところで頑張っているのかもしれない。
「ガザシーさんに見てもらってるんだ」
弟子がそう口にした。
「ガザシーさんはしばらく戦えないから、その分、俺が勝って賞金を手に入れなきゃ」
「何だ、ガザシーは懐具合が良くないのか?」
「そうは言ってないけど、療養中、お金を稼げないのは確かでしょ?」
「そんなに放っておけないか?」
「好きだもん」
弟子はそう言い、再び素振りをする。
きっと助けたい気持ちもあるが、そうすればガザシーは己を恥じるだろう。つまり授業料としてガザシーを支援したいのだ。
まだ十四だと言うのに、ここまで他人のことを考えられるとは恐れ入った。しかし、それはカンソウも同じことであった。ジェーンに良い報告をしたい。そう胸の内では思っていた。最近弟子を蔑ろにしているような気もする。巣立ちの時期なのだろうか。弱い師では共に技を磨くことしかできない。見本が必要だ。だが、それは午前の部ではない、午後の部だ。
「ゲイル、午後の試合を観に行くぞ」
「本当に!?」
ゲイルが驚きの声を漏らす。
「お前の見本となる戦士がいるかもしれない」
「それだったら、師匠が」
「道は一つでは無いのと同じく、戦法も戦術も、それぞれ違う。俺一人に固執していては駄目だ」
カンソウが言うとゲイルは頷いた。
2
午後一番のチケットを買い、階段を上がって行く。今回は師弟並んで席を取ることができた。
会場は満員だった。かつてはこの場所に俺もたまには顔を出し、神の気まぐれで勝ったこともある。だが、そうだ、昔の話だ。俺こそ、目を皿のようにして午後の猛者達の試合を見ねばなるまい。
一人が試合場に入り、観客達の声が上がる。もう一人も現れた。
審判が宣言し試合開始となる。
両者は、飛び出し、剣を激突させた。どちらかの木剣が圧し折れても良いぐらいの音だった。デズーカ辺りなら通用するか。かつてはウスノロで通っていたデズーカだが、彼も師との出会いで覚醒した。俺はゲイルをそこまで導くことができるだろうか。
壮絶な乱打戦が始まり、客達が興奮している。そうだ、魅せる試合をするのが闘技戦士。今の俺にはその余裕すらない。
この二人の猛者が無名なのかは分からない。だが、それでもカンソウよりも強いことが分かった。
攻撃は最大の防御というように同じ軌道で打ち合う両者は凄まじかった。
幸い二人とも両手持ちの剣が得物のようだ。ゲイルをチラリと見ると、すっかり戦いに見入っていた。
仮にゲイルが、他の人物に師事したいと言い出せば喜んで送り出すしか無いだろう。当初の目的とはだいぶ違っている。ゲイルを自分の代わりに午後クラスでも通用する猛者に仕上げようとしていたはずが、今は自分自身が闘技戦士に復帰している。ゲイルはこのことに疑念も不安も無いようだ。しかし、本心を聴かねばなるまい。この午後の部の猛者達を見て思うところが絶対にあるはずだ。
片方が鮮やかに敵の突きを回避し、面を打つ。勝負は決まった。
フレデリックも出るのだろう。
カンソウは友の試合も観るつもりでいた。しかし、そうはいかなかった。
「師匠! 鍛練しよう! 駄目だ、忘れないうちに剣を振り回したい」
これほどの次元の違う戦いを見せられても、まだこの俺を師と呼んで頼りにしてくれるのか。カンソウどこか安堵し、師弟は席を立った。




