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「カンソウの試合」

 カンソウは両手持ちの剣、勿論木剣だ。それを正面に立てるように構えた。両眼を向けた相手は若い男であった。

「無様だな」

 相手は侮蔑の視線を向けてカンソウに言った。

「俺はお前を知っているぞ、カンソウ。いつまでもこんな最弱クラスに出られる勇気、まぁ、それは認めよう。でも、仕方が無いか実力が無いのだものな」

 カンソウは今すぐに相手を打ち殺してやりたい衝動に駆られた。だが、それでは示しがつかない。弟子に、友に、ジェーンに。

 カンソウと同じ、鉄兜の下で、相手は言った。六年前にはいなかった闘技戦士だ。ならば、洗礼を浴びせねばなるまい。

「第四試合、デ・フォレスト対、挑戦者カンソウ、始め!」

「どりゃあっ!」

 デ・フォレストが気勢を上げて間合いを一気に詰めて来る。

 腰だめに剣を構え、これは突きが来るとカンソウは見破った。

 そうして突きを避けて猪突猛進の相手の肩に剣を振り下ろした。

「勝負あり、カンソウの勝利!」

 静まり返った客達が一気に沸き上がった。

 デ・フォレストは悪態を吐きそうな顔つきになったが、不機嫌そうに試合場を後にした。

 と、次の挑戦者が現れ、観客達が名を叫んでいた。

「ヒルダー!」

 クロースに使い古した皮の帽子をかぶっている。腰の周りには投擲用の剣が八本あった。ヒルダは歳を重ね、以前以上に落ち着きと風格が出ていた。

「久しぶりでね、カンソウ殿」

「うちの弟子を預かってくれたこと礼を言う」

 するとヒルダははにかんだ。

「ゲイル君は、素質のある子よ。私達夫婦で教えたことをあっという間に飲み込んじゃうんだもの」

 ゲイルが褒められ、カンソウは嬉しかった。

「カンソウ殿の笑顔を見られて良かった」

 そう言われ、カンソウは慌てて表情を真面目なものに変えた。

 ヒルダは軽く笑って右手に握った長剣を正面に構えた。

 カンソウも剣を眼前に立てるようにする。

「第二試合、カンソウ対、挑戦者ヒルダ、始め!」

 言った途端に、カンソウは先ほどのデ・フォレストのようにヒルダ目掛けて駆けた。

 ヒルダもまるでカンソウを迎え入れるかのように身構え、カンソウの横薙ぎを自ら剣で受け止めた。

「言っておくが手加減無用だぞ、ヒルダ!」

「分かりました」

 両者は競り合いに入るが、カンソウは驚いていた。女性のヒルダに筋力が負けている。一朝一夕での鍛練ではさすがに効果は出ない。まだまだ、もっともっと、鍛えねばなるまい。

 力比べに夢中になっていたカンソウはふと、支えを失い、前によろめいた。ヒルダがいない。

「後ろか!?」

「竜閃!」

 素早く背後に回り、飛び上がって頭を狙う、ヒルダの十八番をカンソウは辛うじて防いだ。圧倒的な剣を伝う腕の痺れと共に。

 カンソウは着地したヒルダを上段から斬り付けた。しかし、ヒルダは身を転がせて回避しながら短剣を投擲してきた。

 顔を正確無比に狙った剣を叩き落とし、カンソウはそこにヒルダがいないのを見て驚いた。

懐から香水の香りがした。

 ヒルダはカンソウの眼前に飛び込んで剣を突いた。

「ちいっ!?」

 カンソウは辛うじて身体を捻じ曲げて避けた。腰の骨が鳴った。

「やりますね」

 ヒルダが言った。

「貴様こそ」

 カンソウは窮地に陥りうるさく鳴り出した心臓を抑えるために一呼吸する。

 ヒルダが、長剣を鞘に収め、短剣を左右に握った。

 そして左右の手は同時に振り下ろされ、顔と胸を狙った、違う軌道に乗った剣が宙を走る。

 カンソウはその二本を寸前のところで避けた。だが、ヒルダは既に空へ跳んでおり、大上段に構えた剣を両手で握り締め、振り下した。

 カンソウは受け止めた。だが、足が腕が踏ん張れない。これほどの差だというのか。ヒルダの力は予想を遥かに超えていた。

 足が折れるように崩れ、地面に膝を付き、カンソウはそれでも踏ん張った。

 腕が、持たない。持たせなければならない。

 認めたくなかった。ここまで開きが出るとは。どう、勝てというのだ?

 腕が支えきれずに徐々に押され、カンソウの抵抗も空しく、ヒルダの剣先が

カンソウの鉄兜に触れた。

「勝負あり!」

 審判がすかさず声を上げる。

 カンソウは抵抗を止め、ヒルダの方はとっくに剣から力を抜いていた。

「ヒルダの勝利!」

 観客達がヒルダの名を叫んで祝福する。

 カンソウは立ち上がり、ヒルダに背を向け、そのまま入り口へと歩んで行った。

「カンソウ殿!」

 ヒルダの声が届き、カンソウは、感傷に浸っている己を恥じた。意を決して一度ヒルダをふり返った。ヒルダが立っている。

「さすがの成長ぶりだ! 応援してるぞ、ヒルダ!」

 そう答え、入り口を潜る。

 確かに負けたが、どこか清々しかった。

 ヒルダと戦えて良かった。カンソウはそう結論付けて、鍛練に奮起することを誓ったのであった。

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