「秘剣乱舞」
デズーカが前傾姿勢になり、腰の鞘に収まった剣の柄に手を掛ける。
知っている。ダンハロウと言う老剣士に師事し会得した技、居合だ。性格共に真っ当となったデズーカの最大にして最高の技であり、特技であって戦術であった。
カンソウは姿勢を傾けながら右往左往するデズーカに対してどう攻めるべきか考えていた。デズーカの両腕の筋力は凄まじい、つまりは破壊的な膂力を持っているということだ。
しばらく、戦いから離れていた己が矮小に思えた。
カンソウは思った。俺は俺自身を雑魚だと思っている。だが、そうでないことを少しでも足掻いてみせて自信と誇りとしよう。
そう簡単に俺が倒れなければだが!
カンソウは駆けた。デズーカ目掛けて疾駆し、剣を下段に構えその巨体の影に入り込んだ瞬間だった。
「ヒケエエエン!」
デズーカの雄叫びが木霊し、凄まじい衝撃が剣に走った。
だが、負けん!
血が沸くような高揚感が全身を駆け巡る。両腕に走る痺れに度肝を抜かれたが、驚いたのはその一撃を前に、自分が耐え切ったという事実であった。
カンソウは自分でも血迷っていると思っている。だが、闘技とはこうでなければならない。戦って勝つだけでは闘技戦士とは言えないのだ。
カンソウはデズーカが剣を鞘に戻すのを待った。
デズーカはニヤリと微笑んだ。
「フン、悔しいが、やるな」
カンソウは笑みを返し、引っ込めると、再び前傾姿勢となったデズーカを打ち破ろうと案を巡らせた。
デズーカは人気者のようだった。その昔は信じられなかったことだ。デカいだけのウスノロでは無くなった。そして彼が友であるということと、剣を交えられるということが誇らしく思えた。
カンソウの次の攻めは決まった。遊びも大事だが、遊んでばかりも居られない。自分は無名だ。勝って名を上げなければならない。この目の前の男や、フレデリックにヒルダが客に贔屓にされているように。
カンソウは大きく踏み込もうとした。
「ヒケエエエン!」
デズーカの居合が飛ぶ、カンソウは完全に飛び込んでいなかった。
「朧月イッ!」
カンソウは今度こそ踏み込んで突きを見舞った。
完全なフェイントだった。しかし、デズーカは返す刃で突きを打ち落とした。よろめきながら、デズーカを見上げる。
「ヒケエエエン!」
重たい衝撃を胴に受け、カンソウは堪らず後ろに仰け反り、無様に倒れはしなかったが、勝敗は決した。
「勝者、デズーカ!」
観客達が声援をデズーカに贈った。
ここまで差があるか。
「また戦おうぜ」
「そうだな」
デズーカの笑顔が眩しく、カンソウの頭から余裕など失われていた。
勝者に背を向け、会場を後にする。
何もかもが甘いのだ。俺達の歩みは対等では無くなり、差が歴然としている。正直、勝てると思っていた。
薄暗い回廊を行きながら、カンソウは己の非力を憎んだ。だが、憎んだところで始まらない。いつだって力を得るには鍛練しか方法は無い。
ゲイルの奴に見られたくはないが、闘技戦士に戻る意思があって腕を治し戻って来たのだ。こうなれば限界まで自分の身体をいじめる他ない。それが勇者となった友たちに並ぶ唯一の方法であった。




