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「デズーカ」

 ガザシーを送ってからというもの、ゲイルは鍛練もそこそこに彼女の滞在する宿に足繁く通っていた。

 勿論試合にも出ていた。ゲイルは素早さと持久力で大人の戦士に勝ってはいるが、其の前に勝ちに逸り打ちのめされるのが常であった。まだまだ相手の動きを予測しようとしない。観察不足だ。

 カンソウは左腕へ未だに不安が拭い切れていなかったが、弟子との模擬戦でしばしその不安を忘れることが多くなった。

 あの老医者には感謝している。そしてその医者の寿命を一日延ばしてくれた竜の神にもだ。そうでなければ、闘技に出る己は居らず、腐った中年の男がそこにいたであろう。弱小で名こそ残せていない。フレデリックやヒルダは名前も知られるようになっている。しかし旅に費やした時間が無駄ではないことを左腕が教えてくれた。

「怒羅怒羅怒羅ぁあっ!」

 闘技場にゲイルの威勢の良い咆哮が木霊する。

 相手はゲイルの勢いに押され、剣で捌くのがやっとの様子であった。

 ゲイルがそこに顔面目掛けて蹴りを放った。大人の顔に足は届いていた。相手は仰け反り、ゲイルはここぞとばかりに駆け、その胴を打った。

「勝者ゲイル!」

 少年を称える声があちこちから上がった。

 子供はタフだ。やはりゲイルは持久力がある。剣を酷使する攻め方さえ変えてくれれば、この比較的弱者が集う午前の部でチャンプまで十分挑めるだろう。カンソウはいつの間にか、己が誇らしく思えていたことに気付き、かぶりを振った。自分の勝利は自分で掴まなければ。もう左手が使えないわけでは無いのだから。

 カンソウは客席を立ち、挑戦者受付へと向かった。

 ゲイルが勝ち残ってくれれば師弟で対決ができる。模擬戦ではない、カンソウもまた己にそう言い聞かせた。

 案内嬢と共に控室で十分ほど待つと、出番を告げられた。

 薄暗い回廊でゲイルと出くわした。

「負けちまったよ。師匠、頑張ってね、師匠の試合も観たいけれど、俺……」

「行け」

「うん!」

 少年は破顔し、嬉しそうに回廊を駆け抜けて行った。

 さて、弟子を負かしたのはどんな奴だろうか。

 太陽が眩く照らす土と石壁、そして重なり合う無数の人の声の世界へカンソウは踏み出した。そこで中央で待っている大きな影に驚いた。カンソウは彼を知っている。彼もまた友なのかもしれない。名をデズーカという。情けない頃もあったが、己を改め強さを極めつつある男であった。

「よぉ、カンソウ、久しぶりだな」

 大男は気さくにそう声を掛けて来た。

「デズーカ、お前に敗北した小僧をどう評価する?」

 挨拶代わりにカンソウはこの強者に感想を求めた。

 デズーカは顔をしかめて、目玉を上に向けて意見をまとめているようだった。

「よく動いた。だけど、あれはまだまだ発展途上っていうやつだろう。威勢は買うが、何分剣に力が無い」

「よく分かった」

 カンソウも思うところであった。仕方が無いのだ。ゲイルはまだ十四歳の少年盛りなのだから。大切に育て、将来、通用する力を手にすればいい。

「左腕、治ったんだな。フレデリックから聴いた。おめでとう、よく戻ってきてくれた」

 途端にカンソウの身体がまるで火が入ったように燃え上がった。

「手加減はするなよ?」

「分かった、最初から俺の本気で行く」

デズーカが言うと、審判が会話が終わったことを見て、宣言した。

「第二試合、デズーカ対、挑戦者カンソウ! 始め!」

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