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「弟子の恋路」

 カンソウは医務室を後にする。弟子はガザシーに相当惚れているらしい。金色の髪、右頬の深い刀傷の痕、カンソウはガザシーの素顔を注意深くは見てなかった。彼女の歳は二十五から二十六程度とおおよその判断していた。

 歩いて戻ると、受付の前で揉めている二人を見つけた。

 どうやらゲイルがガザシーのモーニングスターを代わりに持つと言って聴かないらしい。ガザシーも激昂し、無事な左手を向けて自らの得物をゲイルから取ろうとする。

 そこまで好きか。

 カンソウは恋愛経験が無い。自分は卑屈で嫌な男だった。女の方から寄って来なかったし、自分から寄ろうとも思わなかった。それに闘技戦士に成りたての頃は安宿の費用を稼ぐためだけに戦っているようなものだった。

「このガキ、それは私のものだ!」

「今のガザシーさんには重すぎる! だから俺が持つよ!」

 カンソウは歩いて行く。出来れば弟子の味方をしたかった。

「ガザシー殿、左腕一本ではこの鎖と錘は苦労するぞ」

 カンソウは比較的穏やかな態度でそう言った。ガザシーの憎悪の目がこちらを向く。まるで蛇のようだ。しかし、まだまだ威圧感には乏しい。カンソウはそこで初めてガザシーの素顔を観察した。

 切れ長の目は青で、砂のような長い髪は金、鼻梁は高く、唇は薄くも厚くも無かった。黒装束の下はおそらく普通体系だが、鍛えに鍛えこまれているだろう。モーニングスターは操ったことは無いが、それを戦いに使用する際に使う筋肉はたくさんある。

「お前達には、関係ない」

 ガザシーが振り切る様に言ったときだった。

 ゲイルがガザシーに駆け寄り、空いている左手を握り締めた。

 ガザシーは慌てて振り払おうとしたが、ゲイルも譲らない。左右に振られながら、弟子は根性を見せた。

「握手だよ! これで俺達は関係なくなんかない! 友達だよ!」

「なっ!?」

 ガザシーが驚きの声を上げる。

「友達だから、ガザシーさんの泊ってる宿まで荷物を持って行ってあげるよ。良いでしょ、師匠?」

 ゲイルが満面の笑みで振り返って来た。

「ガザシー殿、この馬鹿弟子が迷惑を掛けるが、あなたに憧れているのは確かなようだ。荷物運びぐらいやらせてやってくれないか?」

 ガザシーは答えに窮したように口を閉じると、言った。

「いつまで手を握っている」

「ごめんなさい」

 ゲイルは慌てて手を放した。気のせいか、ガザシーの態度が軟化したようにカンソウは思った。

「ついて来い、荷物持ち」

 ガザシーが歩き始めた。

「凄い、鎖と錘、こんなに重かったんだね。闘技で使う縄と木の錘とじゃ段違いだね」

 だが、ガザシーは止まることなく歩き続ける。

「行け、馬鹿者。精々尽くして来い」

 カンソウが言うと、ゲイルは頷いて駆け足でガザシーの背へと追いついて行った。

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