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「医務室で」

 案の定、医務室は大騒ぎだった。一人の医師と看護師らが割って入り、ゲイルとルドルフを止めている。ガザシーはまだ気絶しているようであった。

 カンソウは溜息を吐いて、ゲイルの隣に並んだ。だが、ゲイルはそのことにすら気付かないほど激昂していた。気付いたのは対面側にいるルドルフの方であった。

「カンソウ! テメェ、よくもやってくれたな!」

 ゲイルはそこで初めてカンソウの存在に気が付いた様子であった。弟子は言った。

「あいつ、ガザシーさんの腕を折りやがったんだ! そこまで酷いことすること無いと思わないかい!?」

 ゲイルは怒り、興奮した様子でカンソウにそう言った。

 カンソウは弟子の肩に一度、軽く手を乗せると、ルドルフを見た。

「俺の記憶が正しければ、お前、どこぞの貴族に雇われているそうじゃないか?」

「そうだ、それがどうした!?」

「ルドルフ、お前はやり過ぎた。大勢の観客を敵に回し、更に医務室で暴れたりすれば、いくら金に余裕のあるその貴族もお前を疎んじ、解雇するのでは無いか?」

「何だと?」

「ルドルフ、これ以上、見苦しい真似は止めろ。治療が終わったのなら素直に出て行け」

「カ、カンソウ! テメェ!」

 ルドルフが看護師と医師を突き飛ばし、殴りかかって来た。

 だが、途中で無様に転んだ。

 目覚めたガザシーがベッドの下で足払いを掛けていた。

 ルドルフはカンソウの目の前で無様にうつ伏せに倒れていた。

「くっ」

 ルドルフは手を付き立ち上がり、カンソウを睨むと、サッサと医務室から退散していった。

「ここでの暴力沙汰は控えてくれ」

 相変わらずの馴染みだった老医者が誰にともなく言った。

「暴力を振るおうとしたのはあのルドルフとかいう奴じゃないか!」

「やめろ、ゲイル」

 カンソウはそう言うとガザシーの方へ歩み寄り、左手を抱えてベッドへおろした。

「ガザシーさん!」

 ゲイルが駆けつけて来る。

「大丈夫じゃ無いとは思うけど、無理しちゃだめだよ!」

「うるさい、ガキだ。どこかへ行け、鬱陶しい」

 ゲイルの心配も空しくガザシーは頬に深い傷のあるそれでも綺麗な顔を向けて冷たくゲイルをあしらおうとした。

「そら、どきなさい。腕の治療が先決だ」

 医者が言った。

 ゲイルが退く。

 医者と看護師がガザシーの首の後ろから腕に三角形に布を吊った。

「後は一か月ぐらい安静にしてなさい」

「フン」

 ガザシーはそう言うとベッドから下りて、ゲイルの前を通り過ぎ、カンソウの間を横切って入り口の扉を開くと無言で閉めようとしたが、ゲイルがすかさず叫んだ。

「どうやって暮らして行くの!? お金、大丈夫なの!?」

「お前には関係ない」

 突き放すようにガザシーは言ったが、ゲイルは彼女のもとへ追いついた。

「関係無くなんかない! 好きなんだもん! ガザシーさんが!」

 ガザシーは目を見開き、左手でゲイルの襟首を軽々掴み上げた。

「何だと、このガキ。もう一回言ったら殺す」

「結婚しよう!」

 ガザシーはゲイルを殺しはしなかったが荒々しく放り出した。

「私を馬鹿にするのも大概にしろ。クソガキが」

 ガザシーは扉を閉めた。

「ガザシーさん!」

 ゲイルは扉を開いて回廊へ駆け出して行ってしまった。

 恋は盲目か。

 カンソウは溜息を吐き、ゆっくりと弟子の後を追ったのであった。

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