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「弟子の成長」

 ヒルダに会うのは恥ずかしく思い、カンソウはゲイルだけを向かわせて世話になった礼を言わせてきた。

 それからは再び安宿を拠点とし、その裏手で猛稽古に励んだ。

 左腕も右腕も筋力がすっかり衰えてしまっている。悔しく思いながらカンソウは剣を上から下へ、感覚を取り戻すように振るった。

「怒羅! 怒羅!」

 弟子の勇ましい声に合わせてカンソウは素振りを続けた。

 カンソウは負けじと意地になっていたが、ついに腕が痛くなり疲労も満ち、剣を立てて息を喘がせていた。

「怒羅! 怒羅! 怒羅!」

 少年はまだまだ根性がある。カンソウも傭兵を生業にしていた頃は、まだ若く、生気に溢れていた。

 人生の折り返しを転がっている気分だ。もう闘技戦士には戻れないのではないだろうか。そんな弱気の虫がカンソウの胸に巣くった時だった。

「師匠! 見ててくれ!」

 ゲイルが素振りを止めてこちらを見る。やけに自信に溢れているようにも思った。

 弟子は距離を取り、こちらを睨んだ。

「ヒルダ姉ちゃんとウォー兄ちゃんに教わった技があるんだ。あんたに見せたい」

「構えていれば良いのか?」

 カンソウの問いにゲイルは頷いた。カンソウが正面に剣を向けると、ゲイルが駆けて来た。

「怒羅アッ!」

 ゲイルはカンソウの眼前でスライディングし、背後へ回った。

「まさか!」

 カンソウは思わず振り返る。

「竜閃!」

 カンソウは思わず両手の籠手で防御した。

 激しい鉄の音が響き、腕に衝撃を覚えカンソウは押し戻された。

「あ、当てちゃった」

 ゲイルが言った。

 ヒルダの十八番の技だ。確かに身軽なゲイルには向いているだろう。しかし、まだまだ重い斬撃とは程遠い。

「見事」

 カンソウはそれでもこの俊敏力には恐れ入った。

「動きが武器だって教えてくれたのは師匠だぜ」

「俺が……」

「そら、へばってないで、模擬戦しようぜ」

「望むところだ小僧」

 二人は間合いを置き、向き合った。

「俺が勝つぜ」

「そうしてみろ」

 ゲイルが駆ける、カンソウも遅れじと地を蹴った。

 両者の剣が交錯するところで、ゲイルは一歩退いた。カンソウは弟子の前で無様に全力の一刀両断を披露していた。

 冷や汗が疲れを吹き飛ばす。同時に少年の必殺の突きを身を捻って辛うじて避ける。カンソウはそのままの体勢で剣を突き返した。

 切っ先は弟子の布鎧に触れていた。

「考えるようになったな」

 疲労を忘れられた一瞬の出来事を思い出し、カンソウは弟子を認めた。

「まぁね」

 ゲイルは得意げに笑むと、剣を叩いた。そして眼光を鋭くした。

 カンソウは間合いを離し、こちらも無言で剣を向けた。ゲイルが得物を構え直す。横に流すように持っている。

「いくぜ、師匠!」

 弟子は若々しい咆哮を上げて疾走してきた。

 ゲイル、疾風の名に相応しい脚力だとカンソウは思った。

 そして師弟の剣は今度こそ激しい響きを上げてぶつかり合ったのであった。

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