「弟子との再会」
フォーブスを祝福する声が上がる一方で、敗者カンソウは静かに退場した。
だが、その入り口でこちらを見詰める影があった。
そうだ、俺は敗者だ、よろしくな。
自嘲気味にカンソウは顔を背けた。
「師匠?」
その言葉にカンソウは思わず立ち止まり相手を見た。
幾分か背が伸び、少しだけ逞しい体つきになった弟子がこちらを見詰めていた。
「ゲイル」
カンソウは驚きのあまり言葉を失っていた。そして無様な姿を晒してしまった己を恥ずかしく思った。
「これがお前の師を名乗る者の実力だったのだ」
声こそ冷静だったが、カンソウはもう投げやりになってそう述べた。
「左腕治ったんだ」
ゲイルが瞠目した。カンソウが答えに窮していると、ゲイルは言った。
「おめでとう、師匠! それじゃあ、出番だから行って来る」
ゲイルはまるで自分のことのように喜んでいたように思えた。決めつけは良くなかった。だが、どの道、あの程度の相手に勝てないようではゲイルの師は務まらん。
カンソウは悩みながら回廊を進んだのであった。
2
しかし、このまま姿を消すわけにもいかない。ゲイルを連れて来たのは自分だからだ。あの医者の言葉を最初に信じることができればこんな縁など無かったのだ。
いや、信じろという方が無理か。当時の俺はまだ希望を抱いていた途中だったのだから。
コロッセオの外で弟子と向き合うべく待っていると、ゲイルが出て来た。
「ああ、くそっ、俺も一回戦敗退だってさ、師匠」
ゲイルはまだカンソウを師と呼んでくれている。カンソウは告げた。
「それでも今のお前は俺以上だ。もう俺を師として仰ぐのは相応しくないかもしれない」
すると、ゲイルは目を剥きだした。
「俺をここまで連れて来ておいて、自分の腕が治れば捨てるのかい? 師匠、あんたを見損なわせないでくれよ」
ああ、なんてことだ。ゲイルは未だに俺の弟子であろうとすることを気に掛けてはいない。
「師匠の腕前は分かった。俺と同等ぐらいだ。だけど、あんたにはコロッセオや戦いで培ってきた経験がある。俺にはそれが必要だ。あんたは俺の師匠。鍛えるのは一緒だけど、俺を導いてくれるのはあんただけだ。頼りにしてる、師匠」
その言葉を聴き、カンソウは弟子に背を向けて手の甲で涙を拭った。言うようになった。ようやく涙が止まり、弟子を振り返る。
弟子はニヤリと不敵に微笑んだ。
これがゲイルの良いところだ。カンソウは救われた気持ちになり、ゲイルに尋ねた。
「俺が居ない間、修練は欠かさなかったようだな」
「まぁね。ヒルダ姉ちゃんとウォーさんに時々見てもらった。けど、二人とも言うんだ。俺を導く役目は師匠しかいないって、そう信じる限りそうなんだって」
カンソウは力強く頷いた。無様でも良い、責任を果たそう。
「まずは飯だ。それが終わったら、宿の裏手で模擬戦をしよう」
「おう!」
弟子は威勢よく返事をすると、歩き始めた。
背中に両手持ちの剣を掛けているが、それが以前よりも様になっているようにカンソウは思ったのであった。




