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「落ちた力量」

 波のようなざわめきが耳に心地よい。

 だが、カンソウは表面上取り繕って生真面目な顔で入場する。それでも顔が綻びそうになった。

 戻ってきてやったぞ、コロッセオよ!

 カンソウは相手が待ち構えているのをジッと凝視しながら歩んで行った。

 見ない相手であった。それはそうだ、俺が居ない間に闘技場だって代替わりはする。去る者は去り、また新たに志を持った者がコロッセオには集う。

 ブレストプレート。つまりは鉄の胸当てで腹まで武装している。背中はおそらくガラ空きだ。動きやすさを重視しているのか。手には両手持ちの剣、グレートソード系列の武器を正面に構えているが、腕力が足りず、宙で揺らいでいる。

 これは勝てそうな相手かもしれない。鉄兜をかぶった同い年ぐらいの男であった。

 六メートルの間合いを取り、審判が歩み出て来る。

「第二試合、フォーブス対、挑戦者カンソウ、始め!」

 フォーブスが雄叫びを上げて猛進してくる。カンソウには幾つか選択肢があった。だが、今、気になるのは、自分の力量と勘がどこまで低下してしまったかだ。

 実は、手術が終わって休養を取り終わると、カンソウは左腕がまた動かなくなってしまったらと、危惧していた。しかし、剣を一振りし、百ぐらいまで恐る恐る続けて異常が無いことを知ると、その恐れは吹き飛んでいた。

 フォーブスの上段からの一撃をカンソウは剣で受け止めた。木剣が鈍い音を立てる。

 カンソウはフォーブスを睨みながら競り合った。しかし、驚いたことに自分が押されているのを悟った。

 押し返せない。足腰の踏ん張りも腕の突っ張りもまるで子供のように押し返されている。

カンソウは足払いを仕掛けた。だが、足の動きが踏ん張ることだけに制限され、それはわずかに形を崩し、自分の危機を広げてしまっていた。

 ここまで劣化しているとは……。カンソウはやむえず、力比べを横に外して、やり過ごした。フォーブスが軽くよろめいた。カンソウは今だと言わんばかりに剣を振り上げた。

 しかし、フォーブスは剣を向けてそれを片腕一本で受け止めた。

 カンソウは瞠目し、フォーブスに向かって次々、剣を振り下ろした。しかし、フォーブスは体勢を立て直しながらも全てを弾ききった。

 カンソウの力と技は錆び付き、午前の戦士にも遠く及ばぬ実力となってしまったのだろうか。しかし、劣勢でも勝負は諦めない。

 両者が再び向かい合い、フォーブスが咆哮と共に剣を振り下ろした瞬間、カンソウはまたもそれを受け止めた。だが、フォーブスの膂力は凄まじく、カンソウは押され、押し切られ無様に尻もちを付いた。

 フォーブスが尚も剣で切りつけてくるが、辛うじてすべてを受け止め、芋虫のように転がり、立ち上がる。

 だが、フォーブスは既に間合いを詰め、横薙ぎに剣を払った。

 黄金色のスケイルメイルを強かに打ち、勝負は決まったのであった。

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