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「カンソウの帰還」

 カンソウはひと月、主のいなくなったあばら屋を拠点に休養した。町から離れた林の中にある老爺の家を訪れる者は誰もいなかった。

 この老人がどうやって食いつないでいたか、それは裏庭を開拓したささやかな畑を見て解決した。

 野菜に果樹、麦までは無かったがそれが揃っていた。そしてカンソウは腕を休ませながら、老医者の残した様々な冊子を読み、知識を深めていた。とはいっても、将来的に医者にもならないし、畑を耕す予定も無ければ、果樹のなる木を植える気も無い。更に竜を治療する予定なども無い。

 一つ驚いたのは、老医者が使っていた刃物だ。包丁から鉈まで鋭い切れ味であった。膂力が加われば人の腕など骨ごと断つことは造作も無い。その切れ味があったからこそ、カンソウは術中の老医者との答弁の中、痛みを忘れることができたのかもしれない。

 カンソウは少しずつ腕を動かし始めていた。もし、腱が切れれば、もう頼れる者はこの世にはいない。いや、医術書を見て、自分でどうにかするしかない。

 老医者の家を去る前、もう誰もいなければ来ないというのに、カンソウは家の中を掃除していた。左腕を動かす際に少しだけ恐れがあったが、迷いを振り切り、積極的に動かしていった。

 そうしてカンソウは旅立ちの日を迎え、老医者の墓前に挨拶と礼を述べると、出立した。向かうのは勿論、コロッセオである。

 自分のことばかりで弟子のことをすっかり忘れていた。良い休養になったわ。と、思い、カンソウは歩み出した。



 2



 旅の途中での楽しみは剣を物色することであった。もう、イルスデンもべリエルも和平を結んでいる。剣など必要ないというのに次々、鍛冶師は打ち続け、武器と防具の店は無くならない。この状況を訝しむのは自分ぐらいなものか。しかし、カンソウは剣が好きだ。べリエルを抜ける前に立ち寄った店で、これまで愛用していた綺麗な片手剣を下取りに出し、両手剣、ツヴァイハンダーを手に入れ、腰にぶら下げた。

 その日から、カンソウは宿泊する町の宿という宿の裏側で本格的な素振りを始めた。左手ならば自分でどうにかできる程、知識は頭に詰まっている。彼は剣を振るいに振るい続けた。

 イルスデンの街道を歩み、途中で街道警備隊や、商人の馬車とすれ違った。街道警備隊は、ケンカ剣とも呼ばれるカッツバルケルを揃いも揃って腰に提げていた。そして一人旅路を急ぐカンソウは、目的地に進むに連れ弟子のことを考えるようになった。ゲイルは修練をさぼったりはしないだろう。どれほど強くなったのだろうか。逸る心にカンソウは現実をぶつけた。まだあれから三月しか経っていない。だが、少年の成長は早いものだ。

 カンソウは胸を躍らせた。遠くに山のような黒い影が見える。紛れもなくコロッセオだ。そう、カンソウは今こそ帰って来たのであった。

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