「二回目の戦い」
師弟の特訓は、対ヒルダのものになっていた。
だが、ヒルダは両手を使う。右手に主要な武器を、左手には投擲用の武器をそれぞれ持っている。
左手の使えないカンソウは、それだけで修練が緩慢なものになってしまっていることに落胆した。
弟子に申し訳が無い。まるでこれではお遊戯だ。
ゲイルはこの修練と呼べないものを容易くこなしていた。
達成感に溢れる弟子の顔を見て、カンソウは自信を失っていた。
2
ヒルダは強い。なのでまず確実に彼女と会える時を選ばなければならない。午前の試合が始まり、十分後にカンソウはゲイルを導いた。
「それじゃあ、師匠、見ててくれよな」
受付嬢を口説くことも無く弟子は回廊の奥へと案内されていった。
ガザシーとの対面を思い出す。おそらく弟子は本気でガザシーに熱を上げているのだろう。一途なのは良いことだが、歳の差があり、ゲイルもやがては諦めるだろう。
観客席の空いている席に腰を下ろし、会場でヒルダが相手と打ち合っているのを見て、ひとまずは安堵した。
ヒルダが相手を破ると歓声が起きたが、それが一瞬で静かになった。
ゲイルが入場してきたのだ。
「今度は試合放棄するなよ、小僧!」
誰かが声を上げた。
「戦士とは戦うから戦士と言うのだ! 覚えて置け、小僧!」
隣でまるで戦士のせの字も無い恰幅の良い男がいっちょ前なことを叫び、カンソウはそいつの顔面をガントレットの裏拳で打ちのめしてやりたくなった。
ヒルダとゲイルが並ぶ。
二人は二言、三言、会話をした様子だった。
「第六回戦、ヒルダ対、挑戦者ゲイル、始め!」
ゲイルが地を蹴り猛進する。ヒルダは動かず、右手で長剣を握り、ゲイルの到来を待っていた。両者の剣がぶつかった。
木の軽い音色が響く。
「怒羅! 怒羅! 怒羅!」
ゲイルの打ち込みが始まったが、ヒルダはさすがに余裕の様子で受け止めていた。ゲイルが更に剣を振った時に、ヒルダは身を落とし、スライディングしてゲイルの背後に回った。
「しまった!」
カンソウは客席で思わず絶望した。
「竜閃!」
後頭部を狙った鋭い横薙ぎの一撃だが、ゲイルは前に転がって避けた。
観客達が盛り上がりを見せる中、カンソウも心の底から安堵していた。まさか、弟子がヒルダの必殺の一撃について避け方を考えていたとは思わなかったのだ。
「怒羅アッ!」
ゲイルが駆け出し、大上段から剣を振り下ろした。
隙が大きい荒い一撃だが、ヒルダはこれを避けずに剣で受け止めた。
そして両者はそれぞれ両手で剣を握り締め、競り合いに入った。
最初こそ、同等のように見えたが、ヒルダが押し始めた。
分が悪いと悟ったのか、ゲイルは右足でヒルダの身体の横をハイキックで蹴った。
状況を打破しようとする心構えは大事だが、カンソウは弟子の行動に諦めの溜息を吐いた。
足払いならまだしも、上を狙った蹴りとは……。
カンソウの予想通り、左足一本ではヒルダの力を支えきれるわけもなく、ゲイルは体勢を崩して背中から倒れた。
その胸部をヒルダは剣先で小突いた。
ゲイルは再びヒルダに負けたのであった。




