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「竜の聖域」

 セーデルクとデ・フォレスト、二人との再会がこれほど喜ばしいことになるとは思わなかった。これも竜の神のお導きと加護のおかげだろう。再会を祝い、ここで野営を始めた。

 夕暮れまでセーデルクらは歩いて来ていた。なのでまずは彼らを休ませた。

 土と岩の肌が剝き出しで木すら生えていない山は静かなものだった。せめてフクロウの声ぐらい聴きたかった。

 火は無かった。薪は使い切ってしまったからだ。闇の中、セーデルクとデ・フォレストの寝息が聞こえる。干し肉を齧り、カンソウは交代まで待った。



 2



 日が出る前に歩き始めて、白き竜の居場所を目指す。山頂にいるとは限らない。上に行くほど細く狭く山は形を変えてきている。白き竜はどこかの洞穴で眠っているのではないかと、それを話題にしていた。

 ふと、後衛のデ・フォレストが虚空を指さした。

 カンソウらは既に雲の上まで来ている。それでも空に近づけている気がしない。

 幾つもの影が上空を行き交っていた。人間にとって馴染み深い、古き友、竜に違いなかった。ようやくここまで来れた。一同の疲労は報われ、歓喜しながら足を進める。フォレストドラゴンの鳥のような鳴き声が聴こえる。レッドドラゴンの勇ましい咆哮が轟く。フロストドラゴンの声は確認できなかったが居るはずだ。竜の存在に励まされ、歩みを進めると、広い場所へ出た。道は続いているのだが、その広場には赤、青、緑、大中小の三種の竜が闊歩し、眠っていたりもしていた。

 竜はここで生まれるのだ。ここは竜の故郷、そのものであった。

 竜達はカンソウらを見ても知らん顔をしていた。ドラグナージークが戦争の折り、レッドドラゴンに乗って、黒き暴竜と戦っていた光景を思い出す。

「竜乗り達が憧れるのが分かる」

 カンソウは思わず述べた。

「良い眺めだが、先へ進もう」

 だが、デ・フォレストが指さした。

 竜達の後ろに洞穴があるのだ。

 カンソウは緊張と歓喜を覚えた。あそこに白き竜が居るに違いない。

 自然と足が向く。仲間達が制止する声も聴かず、カンソウはゲイルを背負い洞穴まで近づいた。

 その時、中から出て来た影に跳ね飛ばされた。

 出て来た影は大きかった。三メートル程はある、紫の竜、希少種とも言われるアメジストドラゴンである。

 カンソウは身を起こし、上空でこちらを見下ろすアメジストドラゴンの目を見詰めた。

 アメジストドラゴンが吼える。凄まじい威嚇の声であった。途端にこれまでカンソウらに無関心であった竜達が気付いたとばかりに振り返り、ある竜は目覚めて身を起こし、低い声で吠えた。

「白き竜はまさか、自分の同胞である竜までもけしかけるつもりか?」

 カンソウは思わずそう述べ、鈍らか真剣か、どちらの剣を抜くべきか腕を逡巡させた。

「カンソウ、おそらくあの洞穴はアメジストドラゴンらのつまり、ここにいる竜達の巣穴だ。白き竜がこんな賑やかなところで眠っているとは考え難い」

 フォーブスが言った。

「分かった、道を行こう」

 カンソウが洞穴から離れるのを竜達はジッと見詰めていた。

 そして山道へ戻ると、アメジストドラゴンが一鳴きし、竜達の殺気も無くなった。

「すまん、浮かれていた」

「気持ちは分かる。行こうぜ」

 セーデルクが言い、先立って歩みを進める。ゲントが続き、カンソウもその後を追った。

 一時間も歩くと山道はまたも静けさを取り戻していた。竜の鳴き声すらしない。

 その時、セーデルクが足を止めた。

「どうした?」

 カンソウが問うと、セーデルクが指で示す。

 山道は続くがそこには明らかに大きく広い口を開いた洞穴があったのであった。

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