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「螺旋の先に」

 視界が開けると同時にカンソウらは歩み始める。

「この旅もそろそろ終わりかもな」

 セーデルクが言った。

 昨日の竜の声を聴けば、白き竜の居場所に近づいていると思えて来る。カンソウは気付いたが、この大きな山脈の回りを下を崖にして螺旋状に自分達は登っていた。

 そしてハーピィの襲撃も無く、てっきりこのまま平和に竜達に近づけると思っていた矢先であった。

 大地が揺れた。自然と皆が内側に一列になる。ベヒモスの突進のような振動は頭上から来ていると誰もが見破った。

「何かいるぞ」

 デ・フォレストが言った。全員が物知りフォーブスを見るが、年長の彼もまた正体が分からない様であった。一つ言えるのは地鳴りは続き、まるで道を下っているようであった。この調子だと、地響きの主といずれ遭遇する。皆が緊張の面持ちをしていた。

「進むしかねぇだろ。待ってるなんて時間の無駄だ」

 セーデルクが励まし、もう一度全員が足を進めた。

 地響きは続き、遥か下の方からはハーピィらの凶悪な鳴き声がうっすらと聴こえていた。

 地鳴りは大きくなって来る。だが、堂々と歩くセーデルクに皆が魂を鼓舞されていた。

 そうして出会った。とても巨大な影に。

「まさかとは思うが黒き竜!?」

 デ・フォレストが驚愕の声を上げる。

「騒ぐな、よく見ろ。手にはドデカイ棍棒を持ってるぞ」

 セーデルクが言い、一同はフォーブスに目を向けた。

「ギガンテスだ。まさか存在しているとは思わなかった」

「殴打で勝てる相手か?」

 セーデルクが問う。その間にも赤色の巨体が徐々に近づき鮮明になりつつある。

「難しいだろうな。筋肉の塊だ」

「そうかい」

 セーデルクはそう言うと真剣を抜こうとしたが、カンソウは慌てて止めた。

「待て、白き竜の目の前で殺しをするな。癇に障るかもしれない」

「ちっ、分かったよ。鈍ら剣でやるだけやるさ」

 ギガンテスが咆哮を上げる。空気裂かれ耳が痺れた。

 全長六メートルはある。巨大な人影であった。

「行くぜ、オラアアッ!」

 セーデルクが駆ける。

 ギガンテスが太い木の幹のままの棍棒を振り下ろした。

 セーデルクは避け、足を打ったが、効いている様子はない。ギガンテスの棍棒は山道を穿った。

「このままじゃ、不味い。道が寸断される!」

 カンソウはそう言い白き竜に祈りを捧げた。あなたの領域で血が流れることをお許しください。

 カンソウは真剣の方を抜いた。

 セーデルクを追い背中を見せたギガンテスの脛に一撃斬り付けたが、驚いた。真剣でも斬れぬほど強固な筋肉なのだ。こいつを倒さねば先へ進めぬというのに……。

 フォーブスが鈍器で打ち、デ・フォレストも並んで突くが、まるで無駄であった。

 先ではセーデルクが棍棒を避け、大地が鳴動していた。

「こいつは、逃げるしかない」

「同感だ」

 カンソウの言葉にフォーブスが同意する。

「けど、奴の一歩はデカいぞ? 体力切れの所を追いつかれればそれこそ」

 デ・フォレストが言った時だった。

 ギガンテスが棍棒を薙ぎ払った。

「ぐおっ!?」

「しまった!」

 まともに剣で相手をしたセーデルクとデ・フォレストが崖下へ落ちて行く。

「何てことだ、ここまで来ておいて……」

 賢明にもフォーブスは崖に近寄らなかった。

 巨人がこちらを睨んだ。

 カンソウとフォーブスは覚悟を決め並んで身構えた。

 だが、二人の間を割って抜ける影があった。

「ゲント?」

 トマホークを振りかぶった、寡黙な鎧戦士はタイミングを計る様にギガンテスが近付いて来るのを待ち、一気に武器を投げつけた。

 トマホークが縦回転で風の唸りを上げる。それは一つしかない巨人の目に突き刺さった。

 巨人が苦悶の声を上げ、暴れ回る。そして滑落して行った。

「ゲント、よくやった、だが……」

 セーデルクとデ・フォレストを失った。

 カンソウは今こそ、下の様子を見下ろした。そしてその光景を見て驚いた。

 セーデルクとデ・フォレストが、倒れたギガンテスの喉首を二人がかりで掻き切っているところであった。

「フォーブス、ゲント、二人は無事だ」

 フォーブスが慌てて隣に並ぶ。

 血の噴水がこちらまで立ち昇った。ギガンテスは倒れたまま、痙攣し、二度と起き上がらなかった。

「お手柄だぞ! ゲント!」

 トマホークを目から引き抜いてセーデルクが声を上げた。

「二人とも無事か!?」

 フォーブスが叫び返す。

「鎧と兜が無ければ危なかった! 今、そっちに追いつくから少し待っていろ!」

 セーデルクとデ・フォレストが一段下の山道を再び登り始めた。螺旋を描く道は大きな山の外側を回っている。思ったより到着には時間が掛かるだろう。

 だが、二人が無事で本当に良かったとカンソウは心の底から思ったのであった。

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