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「山登り」

 一晩休息し、セーデルクとゲントを引き連れ、また夜通しでカンソウらが見つけた登山道とでも言えそうな道へと引き返した。これだけで一日以上、費やしている。だが、背中のゲイルの顔色が良かったのが救いであった。

 上へ向かう道は比較的広く、三人並んでも少しだけ道幅に余裕があった。

 カンソウもそうだが、全員が普段から鍛えていて良かったと思ったであろう。急勾配が続いていた。

 そして新たなエリアの先住民達もカンソウらを追い払うか、食うつもりか分からないが、ギャアギャアという声を上げ空一杯に並んだ影を作り急降下して来た。

「無駄な殺生は控えなきゃな」

 セーデルクが一匹を競技用の刃引きした剣で叩き落して行った。

「ハーピィか」

 フォーブスが言った。

「毒でもあるのか?」

 カンソウが問う。

「いや、狂暴な以外、気にすることは無いが、くれぐれも捕まるなよ。この高さから落として死ぬか弱るかしてから食い始めるのがこいつら流だ」

 ハーピィは腕の代わりに緑色の艶光りする羽毛で覆われた翼の生えた生き物で、両脚の先には鋭い爪の付いた大きな足先があった。胸の膨らみもあり、一見すれば人間の女性に見えなくも無いが、広い口に生えそろった牙、そして白い眼球を見れば、これが決して平和的な生き物だとは思わせなかった。

 前衛のセーデルク、ゲント、フォーブス目掛けてハーピィらはしつこく降下し、足で捕らえようとする。道幅に余裕があっても得物を三人で振り回すには気を遣わなければならなかった。そこはさすがというべき三人でお互いの得物がぶつかるという失態こそしなかったが、しびれを切らしたのか、ゲントが進み出て一人でトマホークを振り回し、ハーピィらを叩きのめしていた。

「ゲントの奴、更に成長しやがったな」

 カンソウの隣で後衛のデ・フォレストがぼやいた。

 セーデルクやフォーブスもそれぞれの位置でハーピィを相手に奮戦している。ハーピィは数だけは多くいたため、その気絶した身体で登山道がいっぱいになった。

 ようやく五十を軽く超える化け物を倒した一同は再び足を進める。

 セーデルクが先を行く。不意に後方から重たい羽音が聴こえた。

「うわあっ」

 デ・フォレストが驚きの悲鳴を上げる。

 それもそのはず、そこには首の長い竜が羽ばたいていたのだ。

「竜を傷つけるわけには」

 白き竜に会うのだ。その同胞を傷つけるわけにはいかない。だが、物知りのフォーブスが声を上げた。

「竜じゃない、あれはワイバーンだ。長い首と尻尾の毒の針に注意しろ!」

 だが、ワイバーンは、まるでカンソウらを偵察に来たというていで上空へと消えて行った。一同は軽く息を吐いた。空の相手には剣が届かない。弓や石弓なら有効だが、持ち合わせていなかった。

 肝を冷やし、気を取り直して一同は道を登って行った。

 そうして足を踏み外す危険性を考え、夜の行軍は控えて大人しく道端で火を囲んだ。これで薪は無くなった。用意の良いフォーブスが持参した松明が三本程あるぐらいであった。

 夜も深まった頃、遥か頭上で甲高い声が上がった。鳥の鳴き声のようなピーという声であった。

 寝ていたセーデルクが素早く目を覚まし、半身を起こした。

「何だ、今のは?」

 自然とフォーブスへと視線が向けられる。

「今度こそ本物の竜だ。フォレストドラゴンだな」

「だとすりゃあ、やっぱりここに白き竜がいる可能性が上がったな」

 デ・フォレストが嬉しそうに言った。カンソウも彼の声を聞き同じく顔が綻んだ。ここにいる全員が白き竜に導かれたのだ。居ない方がおかしいというべきだろう。

「明日からは竜狩りか」

 セーデルクが言ったが、フォーブスがかぶりを振った。

「本物の竜は賢い。襲ってきたりはしないだろう。我々が分を超えなければな」

「分かってるよ」

 セーデルクはそう言うと再び身を横たえた。普段から堂々とした男である。こんな場所でも彼は簡単に眠りに落ちて行った。

「カンソウ、お前も寝て置け。小僧のお守りもあるんだからな。険しい道だし、寝ろ寝ろ」

 デ・フォレストが初めてカンソウに厚意的な言葉を掛けてくれた。

「分かった。すまんが、俺も寝る」

 ゲイルの隣で横になった。火に照らされる弟子の顔を見て、カンソウは心の中で言った。もう少しだ。と。

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