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「水辺での戦い」

 油断の無い一夜を過ごし、ドラゴンモドキや他の生物の脅威に警戒しながら歩みを進めた。

「ちょっと待ってくれ。流れの音がする」

 そう言ったのは最後尾でフォーブスと並ぶデ・フォレストであった。

「流れ? 近くに川があるのか?」

 フォーブスが問う。

「よし、水の補給が出来るな」

 セーデルクが嬉しそうに言った。それもそのはず、自然動物公園へ入ってから、水を節約して過ごしてきたのだ。

「渡れる川なら良いが」

 カンソウが懸念を口にすると、セーデルクは応じた。

「見てから判断すれば良い。行くぞ」

「よし」

 セーデルクとデ・フォレストが嬉しそうに足を進め、カンソウらも乱れた隊列のまま森を歩いて行った。

 開けた場所に出たのはすぐであった。

 太陽が照り付け、細い小川がサラサラと流れていた。

セーデルクが水を味見し、頷いた。

「おう、こいつは飲めるぞ。美味い」

 その言葉に続いて仲間達は並んで水を飲んでいた。カンソウはゆっくりと縄を解き、ゲイルを下すと水を掬って口にした。

 なるほど、身体を通り、活力を与えてくれるような気分だ。水袋に忘れず補給し、再び出立しようとした時だった。

「誰か、助けてー!」

 人の声がはっきり聞こえた。

 一同は顔を見合わせた。それぞれの顔が、今の声は嘘では無いが、何故、こんなところで? と、訴えていた。

「誰か、助けてー!」

 紛れもない女の声であった。

 今度こそ、一同は頷いた。カンソウもゲイルを抱え上げて一同は声が聴こえた上流へと足を急がせた。

 すぐに滝つぼに着いたのだが、その真ん中に黒髪の乙女が必死に手を動かして助けを求めていた。

「大丈夫か!?」

 デ・フォレストが声を上げると、セーデルクが呆れたように言った。

「大丈夫なわけねぇだろうが。今助ける!」

 セーデルクは外套を脱ぎ捨て、水に濡れてはいけない携帯食などを慣れたように置くと、水の中へ踏み入って行った。

緊急事態ではあるがカンソウは何故か、腑に落ちなかった。こんな樹海を何故、あのような可憐な女性が一人で? 手練れだというのか? その割には普通の衣服を着ている。

「俺も行くぜ」

 若い女性を見て張り切ったのか、デ・フォレストも後に続いた。

「どう思う、フォーブス?」

 カンソウが尋ねる。セーデルクは腰まで水に浸かっていた。

「分からん。だが……ん? もしや!」

フォーブスが緊迫した顔で声を上げた。

「戻れー! 戻れ戻れ! 罠だ!」

 セーデルクとデ・フォレストがこちらを振り返る。

「うふふふ」

 女性は笑い声を上げる。そしてその下からおぞましい大きな口が現れた。

「スキュラだ!」

 フォーブスが言い、カンソウは慌てて川べりへ近づいた。デ・フォレストはまだ良いが、セーデルクはすぐ目の前であった。

「ガハハハッ、人一人だけでも食える。それで満足だわ!」

 男の声の気持ちの悪い声を発し、スキュラがセーデルクへ近づき、口を開いた。女性部分はスキュラの舌であり、腰までしか形成されていなかった。

「セーデルク!」

 デ・フォレストが呼んだ。

「ち、野郎! おかしいと思ったんだ。レンジャーでさえ知らない樹海になんで女がってな。魔物の罠だと、ふざけやがって」

 セーデルクが腰の短剣を抜いた。

「駄目だ、セーデルク、自然公園の生き物を殺しては!」

 フォーブスが声を上げる。

「クソがっ!」

 セーデルクは後方に下がりながら、短剣をスキュラに向ける。

「わははは、私を殺してはいけないのか、不運だな、セーデルクとやら。だが、安心しろ、貴様のことは骨ごと全て平らげてやる。あーん!」

 スキュラが長い犬歯だらけの口を開き、一気に間合いを詰めようとした時、カンソウは石を拾って投げつけた。

 石はスキュラのおぞましい水色に近い紫色の顔に命中した。

 フォーブスもカンソウの隣で礫を投げつけた。

「おのれ、食事の邪魔をしおって!」

 スキュラが怯みながら言った時、重々しい足取りがカンソウの後ろから聴こえた。

「げえっ!?」

 スキュラが驚愕の声を上げる。

 ゲントが五メートル程もある大岩を持ち上げていたのだ。

 カンソウとフォーブスが道を譲ると、ゲントは水へ踏み入り、大岩を投げつけた。

 水柱を上げてスキュラは圧し潰された。

「ゲント」

 カンソウは驚いて鎧の男を見た。

「良いのか? 生き物殺しちまったけど」

 水から上がったデ・フォレストが恐る恐る口にした。

「良いんだよ! ナイスだ、ゲント!」

 大岩を一瞥しセーデルクが水を掻き分けてこちらへ来る。

「まぁ、このことは我々の中での秘密だな」

 フォーブスが言い、一行は再び旅の準備に取り掛かりながら、最後にスキュラの墓標を眺めて、下り、水深の浅いところを見つけて、先へと進んで行ったのであった。

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