「森の脅威」
朝になった。陽はほぼ枝葉で隠れ、あまり届かなかった。だが、夜では無いことは分かったし、懐中時計が五時を指していた。
ささやかな食事を摂ろうとした時であった。
「ん?」
デ・フォレストがセーデルクの背後の草藪を見て首を傾げた。
「何だ?」
セーデルクが怪訝そうに問う。
「いや、何か揺れた様な……気のせい……じゃねぇ! あぶねぇセーデルク!」
デ・フォレストはそう叫ぶと、セーデルク目掛けて踏み込み、背後の茂みに剣を振るった。
音がした。草藪が飛び、尖った口が見えた。
「な!?」
セーデルクが声を上げ、全員が驚いて慌てて臨戦態勢を取る。
すると、周囲から耳をつんざく様なギャーギャーという鳴き声が木霊し、カンソウも恐怖を覚えた。慌ててゲイルを背負い、フォーブスに縄を締め直して貰っている間にも、周囲から次々と竜、いや、翼を持たない大きなトカゲ達が姿を見せた。
「これがドラゴンモドキか?」
フォーブスが言うと、セーデルクが頷いた。
「カンソウは小僧を守ってろ。いくぞ、オメェら! 俺達は闘技戦士だ!」
暗緑色に皮膚を染めたドラゴンモドキは五匹いた。二足歩行で、前足。いや、手は短いが爪が鋭い。それよりも脅威なのは口である。牙の並んだ口から生臭い息を吐く。あれに噛まれれば肉をごっそりもって行かれるだろう。
その時、ゲントが威風堂々と歩み出し、一匹のドラゴンモドキの頬をトマホークの刃の平で打った。
強烈な音がし、ドラゴンモドキは倒れ、泡を吹いていた。
それが合図となり、セーデルク、フォーブス、デ・フォレストがそれぞれドラゴンモドキを武器で打っていた。
だが、打撃武器として意味のあるフォーブスの鈍器以外は、大したダメージを与えられないでいた。
カンソウも手助けに入った。クレイモアー。これで打たれた闘技戦士は鎧越しに苦痛を感じるはずだが、実際ドラゴンモドキを叩いてみて分かった。皮膚が鉄のように強固なのだ。
ゲントが進み出て来て、ドラゴンモドキの頭をトマホークの平で叩き気絶させる。
フォーブスも一匹を戦闘不能にした。
残りは知恵があるのだろうか。体色と同じ茂みへ飛び込んで行った。
一同はゲント以外、大きく息を吐いた。
「クソがっ、真剣ならやれてたぜ」
「ああ、その通りだ」
セーデルクとデ・フォレストが言った。
気絶しているドラゴンモドキはその身体が痙攣していなければ、地面とも同じ色合いだった。
「デフォ、良く気付いたな」
「ああ、何か影が揺らめいたような気がして、そいつが黄色の目で瞬きした瞬間、やべぇと思ったんだ」
デ・フォレストが興奮気味に言った。
カンソウは焚火の後を踏み消し、荷物を持った。
「これから先も俺達からしてみれば、この奇襲は続くかもしれん、用心しよう」
「まぁ、それは……よし、カンソウ、ゲントにコンパスを渡せ」
セーデルクが言った。
「ゲントの活躍を見たろう? 今回は大いに盾にも剣にもなってくれる。先を任せる。で、フォーブス、お前は相棒としんがりだ。追撃してくるかもしれねぇが、お前のメイスと、若造の視力ならそれも視認できるだろう」
「良いだろう」
フォーブスが頷いた。
カンソウも意見は無かった。皆が、自分とゲイルのために必死になってくれている。セーデルクのリーダーシップも認めていた。ゲントの活躍に、デ・フォレストの視力、そして同じロートルのフォーブスはいつだって冷静だ。頼もしい仲間達を竜の神は見繕ってくれた。だが、同時にそれだけ道は険しいのかもしれない。
「カンソウ、用意は良いか?」
セーデルクが顔を向けた。
「ああ、行こう」
「よし。ゲント、北西だ。方位磁針の見方、分かるよな?」
ゲントはかぶりを振った。
「仕方ねぇ、俺が隣で案内してやるよ」
そうして覆いかぶさって来る枝葉を払い除け、一同は森の中を出立したのであった。




