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「到着、そして出発」

 幌付き荷馬車の車輪がガタガタと、そして七頭の馬が立てる蹄の音が静かな街道に木霊した。すれ違う者は誰も居ない。この道の先には自然公園しか無いのだ。

 そのうち遠くに霞がかった山脈が見えて来た。

「あれか」

 デ・フォレストが言った。

 そして城壁のような壁がずらりならんで視界を奪う。柵だ。自然公園の動物達が逃げないように造られた分厚い石壁だ。

「もうすぐってことだな」

 セーデルクがガントレットを叩いて述べた。

 待っていろよ、ゲイル。

 カンソウは荷馬車を振り返り、横たわったままの弟子を一瞥した。



 2



 意外に到着は遅かった。それだけ自然公園が広大ということだ。

 まるで地味な建物があり、警備兵が一人、任務に当たっていた。

「ここは帝国自然公園だが?」

 若い警備兵はそう尋ねて来た。あまりにもカンソウら一同が場違い過ぎるということだろう。

「ああ、用があって来た。責任者と話がしたい」

 カンソウが馬を降りて言うと警備兵は頷いて建物の入り口の中へと消えて行った。そして再び一人の屈強そうな中年の男を連れて出て来た。

「責任者代理のレンジャー、デッカードだが?」

「私はカンソウ。これらは私の仲間達だ」

「カチコミに来たわけではなさそうだな」

 デッカードは一つ息を吐いてカンソウを見た。

「用件を聴こう」

 カンソウは話した。山脈の白き竜のもとへ、脳が動かなくなった最愛の弟子を治すために、白き竜に会わねばならないことを。

 デッカードは一同を見回した。

「それなりの装備をしているようだが、公園内の生き物達を殺したり傷つけたりはできないぞ」

「それは勿論だ」

 カンソウが言うと、デッカードは頷きもせず真面目な顔で言った。

「ここにいる生き物達を舐めない方が良い。君ら、ベヒモスもヒュドラもロック鳥すらも知らないだろう?」

「名前だけは知っているが、狂暴なのか?」

 フォーブスが問うとデッカードは頷いた。

「ベヒモスは余計なことをしなければ温厚だが、ヒュドラは狂暴、いや、凶悪だ。ロック鳥も興味があれば君らを浚って行くだろう。ここでは人間も餌だという認識を忘れないで欲しい。勿論、白き竜の言葉ならば通すさ。馬と荷馬車を置いて来な」

 警備兵の案内でカンソウらは馬を厩舎に荷馬車を倉庫に置いた。全員が何か考え込んでいる様子であったが、カンソウがゲイルを背負い縄で身体に固定すると、仲間達は意を決したようにカンソウの後に続いた。

 デッカードの案内でレンジャー達の事務所に入るが、茶を振舞われそうになったのでカンソウは言った。

「時間が無い。今すぐ出発したいのだが」

「今は夕方間近だ。このまま行くと夜に森に入るようになるぞ」

 デッカードが驚いた顔をしていた。

「ゲイルは食事を摂れないんだ。水だって飲めない。放っておいても栄養失調で危険な状態になってしまう」

 カンソウが訴えるとデッカードは頷いて、方位磁針を渡した。

「森には厄介な生物も居れば、森の主もいる。明日、陽が出ているうちに歩ませたがったが」

「自分達の身は自分達で守る」

「ドラゴンモドキに気を付けろ。翼の無いドラゴン達だ。周囲の風景に身体の色を合わせることができる。ただ山脈は北西だが、平地ルートから北西を直接目指すのは駄目だ。大きな沼があってヒュドラが住み着いている。公園内で一番狂暴な生き物だ」

「森っても樹海なんだろう?」

 デ・フォレストが問う。

「ああ、広大な樹海だ。そのための方位磁針だ。無くすなよ。それと、どうしても戦いが避けられない時は、お前達の持っている鈍ら剣で叩いて追い返すのは認めよう。ただし、やり過ぎるな。打撲程度なら良いが、骨を折るのは駄目だ。といっても、公園内の動物たちはみんな頑丈だがな。本当に行くのか?」

「勿論だ」

 カンソウが言うと、デッカードは頷いた。

「まずは北を目指して森へ入れ。白き竜がお前達を試している以上、部外者の俺が加わるわけにはいかんだろうからな」

「そういうこった。さ、行こうぜ」

 セーデルクが言うと、カンソウも皆が揃って頷いた。

「ついて来い、ゲートまで案内する」

 デッカードはそう言うと歩み始めた。

「神に祈りを捧げるか?」

 デ・フォレストが仲間達に尋ねた。

「その神に試されてるんだろうが」

「ああ、そうだった」

 セーデルクの少し呆れたような言葉にデ・フォレストは苦笑いを向けた。

 カンソウらはデッカードの後を追い、一つ重々しい扉を開くと、少し先に園内へ続くと思われる大きな格子状の扉を見た。

 既に何らかの動物達の声が聴こえていた。

 デッカードが格子状の扉を開く。

 カンソウは緊張を覚え、一歩踏み出したのであった。

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