「対策練習」
カンソウとゲイルは小石を拾い集め、木剣を買い集めた。石の数は五十個、木剣は三十本買って揃えた。そしてすぐ北の帝都の画材屋から色付きのインクを買った。まずは小石に二人で赤や青、黄を筆で色づけた。せっかく集めた手頃な石を見つけやすくするためだ。
ゲイルから八メートルほど離れた位置にカンソウは立ち、黄色の小石を手にして、弟子を見た。
「ゲイル、準備は良いか?」
「いつでも来い!」
ゲイルの言葉を聴き、カンソウは石を投げつけた。弟子はこれを剣で弾き返した。鉄と石がぶつかる高らかな音色が聴こえた。
ここは宿の裏手だが、この音を聞いても気にする者はいない。カンソウは迷惑にならないことを知ると、今度は木剣を投げつけた。
ゲイルは同じく剣で弾き返した。カンソウは片腕ながら半ば焦りながらも、打倒するガザシーの縦横に動く縄、本来はおそらく鉄の鎖だろうが、その動きを再現したく、次々、ゲイルに石や木剣を投げつけた。
ゲイルはどうにか追いつくが、弾き返すのでなく、時には防御で防いでいた。
「ゲイル、ガザシーの縄は器用に動くぞ! ヒルダの投擲だって正確無比だ!」
「師匠!」
「何だ?」
「そのまま断続的に投げつけてくれ! 要は元を断てばいいわけだ」
突っ込んでくる。そういうことだろう。
「試してみろ」
カンソウはこれは手を抜けないと決意し、片腕に鞭打って次々石と木剣を投げつけた。
ゲイルはやはり駆けて来た。
飛んでくる障害物を両手持ちの剣で弾き返し、真っ直ぐカンソウ目掛けて突進してくる。
ゲイルが目の前に来た時、カンソウは慌てて腰のブロードソードを引き抜いて、ゲイルの決意の宿った剣を阻んだ。
「ガザシーの武器がもっと違うのは分かるけど、ヒルダの投擲なら見切れるかもしれない」
「阿呆、俺とヒルダでは投擲の力の入れ方が違うわ。油断するな。何度でもやるぞ。やれるな?」
「どんどん来い」
ゲイルは上機嫌で元の位置に戻った。
カンソウの投擲は小石なら問題ないが、木剣だと十メートル前後が届く範囲だが、威力が弱まっている。やはり八メートルが一番良い。ヒルダやガザシーはそれ以上をやってくるだろうが、これがカンソウの限界であった。
師弟は投げつけ、弾き返しの繰り返しを午後いっぱい行った。
カンソウは肩に痛みを覚え、ゲイルは呼吸を荒げていた。
夕暮れになり、見通しが悪くなったところで練習は終わった。
食事処竜の糞で、ゲイルはたくさんの食事を掻き込んでいた。よく食べさせ、良く寝させ、よく動かす。カンソウが子供を弟子に取るときに己に誓った言葉だ。
弟子は気持ち良いぐらいの食べっぷりを見せた。
二人は宿へ戻ったのだが、ゲイルが素振りをするというのでカンソウも付き合った。
隣で剣を振る弟子と同じく、カンソウも長剣を振った。振りながら、自分が未だにゲイルに夢を託しきれていないことを悟った。
本当は自分が戦いたかったのだ。戻りたいのだ、闘技戦士に。
雲で霞んだ月が微量な明かり捧げ、二人の戦士の剣を光らせた。




