表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/144

「月光対月光」

 次の相手が歩んで来て、カンソウは見た。ここで立ちはだかるか。

 赤い髪にプリガンダインで身を固め、腰から片手用の長剣を引き抜く。観客達がその剣士の名を呼んだ。

「フレデリックー!」

 凄い騒ぎであった。フレデリックの相棒、長槍のマルコは居心地悪そうに苦笑いを浮かべていた。

「俺の名声も見事に持ってかれたよ」

 マルコはカンソウに言った。

「安心しろ、お前は俺よりは強い」

 カンソウは月並みな励ましを送る。

「さて、ゲイル君、いよいよ君と戦える時が来た」

 フレデリックは力強い笑みを浮かべて言うと剣を抜いた。

「あんたの試合は何度か観たけど、勝つのは俺だよ」

 ゲイルが言うとフレデリックは二度頷いた。

 主審が間に入る。

「もうその辺で良いだろう。試合を始めよう。各自位置に着いて」

 そう言われ、ゲイルとフレデリックは六メートルの間合いを開き、カンソウとマルコはセコンドとして相棒から二メートル以上の距離を取った。

「第八試合、ゲイル対、挑戦者フレデリック、始め!」

 ゲイルが飛び出そうとしたが、足を止めた。するとフレデリックが駆け始めた。何とも速さと装備のわりに軽やかな足取りである。

「旋回横月光!」

 そう叫んだのはフレデリックであり、言葉通り、薙ぎ払いながらゲイルに向かって飛び込んだ。

「弱点見たり!」

 ゲイルはそう叫ぶと屈んでフレデリックの足に飛びついた。

 フレデリックが倒れ、馬乗りになったゲイルが剣を振り下ろそうとしたが、手を取られ、捻られた。ゲイルが苦悶の声を上げながら堪えている間にフレデリックは立ち上がっていた。

 だが、ゲイルは急に呻くのを止めると、ガントレットの鉄の拳でフレデリックの兜を殴打する。

 フレデリックは正面に顔を向けると一気にゲイルの手首と布鎧の襟首を掴んで投げ飛ばした。

 歓声が沸く。

「ゲイル、落ち着いて行け!」

 観客の声に負けじとカンソウは激励した。

 ゲイルがフレデリックの手から逃れ、下がったかと思うとそのまま躍り掛かった。

「真月光!」

「逆月光!」

 上と下、双方の刃がぶつかりあった。

 ゲイルが一旦刃を離し、フレデリックを見た。

「君の掛け声も月光なんだね」

 フレデリックが言った。

「ああ、何かあんたの掛け声が俺にはしっくりくる。つまり、ファンってことだな」

「ありがとう。さぁ、行こうか!」

 フレデリックが踏み込み、剣を三度突いて来た。

 鋭い刺突をゲイルは危なげなく避け、最後の一刀が戻る前に下へと剣で打ちつけた。

 フレデリックが剣を取り落としそうになる。

「月光!」

 ゲイルが叫んでフレデリックの正面に打ち込んだ。フレデリックは逃げもせず、ハイキックでゲイルの胴を蹴り付けた。

 しかし、ゲイルは身を避け、後ろに回り込むと、今度こそとばかりに剣を振り下ろした。

「裏月光!」

「危ないっ!」

 マルコが声を上げた。

 だが、フレデリックは華麗に身と剣を素早く回して受け止めた。

 そして、剣の刃を軽くゲイルのグレイトソードの刃になぞらせると、大上段に剣を振り上げた。

「月光!」

 高らかな金属の音色と共に悲痛な音も上がった。ゲイルのグレイトソードは刀身半ばから折れ飛んでいた。

「二本目だ!」

 カンソウは素早く指摘する。ゲイルは刀身半ばのグレイトソードを鞘に戻し、新品の二本目を引き抜いた。剣の寿命もここまでか。午後の部、何と恐ろしいところであろうか。剣を圧し折りながらも楽しむ狂気の宴の様だ。

「行くぜ、月光!」

「月光!」

 剣が激突するが、ゲイルは両手剣を両腕で握っているのに対し、フレデリックは片手剣を名の通り片手で握って渡り合っている。

 ええい、私が諦めてどうする。その時、フレデリックの左手が剣の柄頭に添えられた。

 両者は、競り合っていた。カーラならば負けなかっただろう。だが、フレデリックは余裕の無い表情で、ゲイルと力を凌ぎ合っていた。

 その時、ゲイルが駆けた。

「後ろ! ああ!」

 マルコが叫び、剣を振るって振り返ったフレデリックの正面にはゲイルは居なかった。だが、マルコもカンソウも観ていた。知らないのはフレデリックだけであった。

「裏月光!」

 フレデリックの背中にゲイルの刃がぶつかった。ゲイルは裏に回り止まらず、再び正面へ回ったのだ。つまり一周したのだ。フレデリックが振り返り、背を見せるのに賭けていたのである。

「知恵が回るな。負けたよ、ゲイル君」

 フレデリックが言うと、ゲイルは得意げに微笑んだ。

「他には誰かいたかな。何にせよ、チャンプを降してくれ」

「勿論」

 ゲイルが手を差し出すと、フレデリックは少し驚いたような顔をし、軽く笑って握手に応じた。

 そうしてフレデリックは手を放すと、彼の肩を叩いたマルコと共に悠然とした姿で会場を後にしたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ