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「友人対決」

 次の対戦相手が入場して来た。ゲイルはどうかは知らないが、カンソウもさすがに避けては通れない相手だろうと目星をつけていた。

 銀甲冑のドラグフォージーと、茶色の外套に身を包んだサラディン。サラディンの実力は未知数だ。しかし、まだまだ成長過程でもあるドラグフォージー、いや、シンヴレス皇子だって手強い相手となるだろう。

「よ」

「やぁ」

 二人の友人は気楽に挨拶を交わしていた。

「ゲイル、ずいぶん、男前になったね」

 シンヴレス皇子が言うと、ゲイルはスパークに拳でへこまされた兜をなぞって笑った。

「良いだろ?」

「うん、良いね」

 二人が話している間もカンソウは落ち着かずに、皇子とサラディン、どちらが相手になるのか様子を探っていた。

「各自、位置に」

 主審が促し、仕切り板の後ろに立ったのはシンヴレス皇子であった。カンソウは何故か、安堵していた。やはりサラディンの実力があまりにも分からないからだろう。

「第七試合、ゲイル対、挑戦者、ドラグフォージー、始め!」

「行くぞゲイル!」

「上等だ、フォージー!」

 両者突撃した。

 鉄の音がし、二人はすれ違った。

 観客が息を呑む。カンソウも落ち着いた様子のサラディンも当然ながら注目していた。

 両者振り返って笑い合っていた。どうやら、得物同士がぶつかっただけのようだ。勝敗には関係ない。二人はそれからも互いに突撃し、得物をぶつけ合った。

 すっかり忘れていた特別室側から見える壁のパネルの時間が七を指した。

「フォージー殿、お遊びにしては長すぎますぞ」

 サラディンが呆れたように言った。

「ゲイル、お前もだ」

 カンソウが続くと疲労を感じさせないキラキラした表情でゲイルは頷き、相手を見た。

「りゃああっ!」

 ゲイルが突進した。

「月光!」

 上段からの斜め切りをシンヴレス皇子は軽く剣でいなそうとしたようだが、グリップを握り直した。競り合いに入るかと思った瞬間、今度は両者は激しく打ち合った。

 刃の応酬の速さと痛烈さが音となって木霊し、観客の目を奪う。

 二人は離れたかと思うと、ゲイルがダガーナイフを投擲した。

 シンヴレス皇子はバスタードソードで弾いた。ゲイルが接近している。

「横月光!」

 ゲイルはそう叫んだ、が、実際は突きでは無く頭上に跳び上がり。大上段に真月光を振り下ろしていた。

「くっ!」

 横から来ると自然と思ってしまう。カンソウもそうだった。

 グレイトソードとバスタードソードがぶつかり合うかと思ったが、この僅かな時間の間にシンヴレス皇子は左手を背に回し、小盾を取って刃を受け止めた。どういう意図で防御の得物を変えたのだろうか。

「ゲイルの膂力と両手持ちの剣の頑健さを皇子は侮ってはいけないと思ったのだろう。カンソウ殿、見ろ」

 敵側であるサラディンに言われ、指さす方向を見ると、小盾の木の部分は崩れ、金属の骨組みだけが残った。

 カンソウはこれほど、ゲイルを恐ろしく思ったことは無かった。だが、頼もしいと思い直した。鈍色卿に負け、短期間で体力も膂力もしっかり身に着けている。カンソウは自分の指導の賜物とは思っていない。全てゲイルが自主的に極めた結果だ。

 ゲイル主導で、剣のぶつけ合いが始まった。いつの間にか勝った気でいたが、そこはサラディンやドラグナージークという経験豊富な戦士達と共に過ごした皇子である。

 バスタードソードを片手で握り、縫うように、ゲイルの剣を抜け、籠手を狙い始めていた。

「ゲイル! 焦るな、よく見て行け! 時間は」

 カンソウは癖で見やすいパネルではなく副審の指の方を見た。残り三本。

「残り、三分だ!」

 勝負に出ろとは言えなかった。皇子があまりにも力のゲイルを技で翻弄しているからだ。ここで余計な考えを入れてはいけない。そうだ、まだ三分あるのだ。

 ゲイルが片手を放し、皇子の剣持つ右手を掴んだ。

 そして甲冑を着ている皇子をそのまま背負い投げにした。

 皇子は転がって立ち上がる。

 だが、そこに一つの金属の音が木霊した。

 短剣、いや、グラディウスが皇子の鎧の胸部に当たって落ちたのだ。

「ああ、やられた」

 皇子はそういってかぶりを振った。そしてゲイルを見た。

「君のことだから、追いついてくるのだとばかり思っていた。投擲も上手いのだね」

「勝者、ゲイル!」

 カンソウは安堵の息を吐き、会場にいるであろうガザシーに感謝した。投擲をゲイルに教え込んだのは彼女であるからだ。

「悪い、勝たなきゃならないんだ」

「うん、そうだね」

 二人の友人は頷き合い、そして握手をする。手を放すと、皇子は言った。

「幸運を祈るよ」

 そうしてシンヴレス皇子はサラディンと共に会場を後にしたのであった。

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