「ゲイル対カーラ」
次に入場して来たのはウォーとカーラの組であった。
「ウォーさん!」
ゲイルが疲れた顔を輝かせた。
「ゲイル君、頑張っているな。だけど、本気でやらせてもらおう。こちらのカーラさんがね」
ウォーの相棒、カーラが進み出て来た。斧のような大剣、いや、巨剣、グレイググレイトを担ぎ、カーラは微笑んだ。
「わぁ、カッコいいおばさんだ」
「見る目あるね、坊や。あたしはカッコいいのさ。だから、この試合も勝たせてもらうよ」
「うん、望むところだよ」
「よし、良い目だ」
それぞれが配置に着く。
「ゲイル、剣が二つあるとはいえ、相手の斬撃を受け止めようと思うな、あれはそうだな、規格外だ」
「分かってはいるけど……」
避けるなんて消極的な真似が許せないのか、カーラの剣に怯えているとでも思われたくないのか、カンソウは逡巡し、言い直した。
「さっきの言葉は忘れろ、思いっきりやれ」
「おう!」
審判が双方を見る。
「第六試合、ゲイル対、挑戦者カーラ、始め!」
重たい音色が聴こえた。カーラが得物を振り回しているのだ。カンソウは思った。大会屈指の膂力の持ち主はこのカーラであると。そうなると、打ち合いを選んだゲイルの剣が心配であった。
「怒羅アアアッ!」
ゲイルが駆ける。
カーラが剣を薙ぐ。ゲイルは直前で止まり、それをやり過ごして剣で打ち込んだ。
「月光!」
だが、返す刃でカーラが得物で受け止める。そして押し退けた。ゲイルは二歩ほどよろめいて、またも斬りかかる。
そうやって鉄の音色が幾度も轟いた。
だが、次の攻勢は違った。攻撃側カーラは、得物を縦にし振るってきたのだ。
ゲイルはこれを受け止めるが、体勢が崩れかけた。
「ゲイル! 抜け出せ!」
カンソウは慌てて声を掛けた。カーラが焦れて来た。ゲイルはこれを狙っていたのだろうか。
ゲイルは足を伸ばし、カーラの片足を蹴った。そして反動で脱出した。断頭台の刃の如く、カーラの重い斬撃は大地を穿った。
「豪重!」
カーラが気合の薙ぎ払いをゲイルに見舞った。
鉄の衝撃音が会場を揺るがす。ゲイルは剣で受け止めたのだ。
「喰らい付いて来るのは可愛いけどね、坊やはまだ力不足!」
「分かってるよ! だから」
「だから?」
剣越しに両者が言葉を交わし合う。ゲイルは答えた。
「こうだ!」
ゲイルは刃を放すや、跳躍し、短剣を投げつけた。
「それだけかい?」
造作もなく短剣を弾いたカーラだが、まだ事態に気付いていない様だった。カンソウやウォー、観客が見ているのは背後に跳び降りたゲイルの姿であった。
「横月光!」
だが、カーラが雄叫びし、重い得物を旋回させて刃を受け止めた。
「他に手はあるのかい?」
向き直ったカーラが問う。
「あるさ」
ハッタリだろうか、ゲイルがそう述べた。
カンソウにしてみれば、膂力に劣り、頭上から回り込むやり方も、投げナイフも披露してしまった。もう、手立ては無いだろうか。ゲイルの十八番、スライディングして竜閃を見舞うしかないのだろうか。カンソウは諦めずにカーラの動きに注目した。
一つ分かったことがある。カーラは乱打戦には持ち込まないようにしているかのようだった。まるでその重い剣を持続的に操るのにはまだ筋力が足りないかのように。そうだとすれば、簡単だ。相手の攻撃の終わりに隙が生じる。重い物を扱うとはそういうことだ。
しかし、それを口頭で伝えるのは無理である。カーラに助言するようなものであった。なのでカンソウは剣を抜き、呼んだ。
「ゲイル!」
そして弟子がこちらを見ると剣を振るって見せた。最後に硬直時間を長くした。果たして伝わっただろうか。
「カーラさん、あと四分!」
ウォーが言った。
「そろそろ決めようとしようかね!」
カーラは剣を持ち上げ、大上段に構えるとゲイルに向かって振り下ろした。
ゲイルはそれを受け止めた。カンソウは苦く思った。剣への負担が大きすぎる。ゲイルは気付かなかったのだ。カンソウの身を張った助言に。
だが、驚くことが起きた。
ゲイルがカーラ目掛けて突っ込んだ。
体当たりを受けてカーラはよろめいた。
体勢を整えたカーラには見えていなかったらしい。カンソウもウォーも観客も瞠目して、もう一度背後に回り込んだゲイルを見ていた。
「裏月光!」
「しまった!」
またも振り回した重たい剣だが、今度は追いつけなかった。
ゲイルの剣がカーラの背中を打った。
「勝者ゲイル!」
審判が宣言すると、会場は凄まじい拍手と声援に沸いた。
「やれやれ」
カンソウは大きく安堵の息を吐いた。
「ゲイル、よく懐から回り込むなんて考えたな」
駆け寄りながら言うと、ゲイルは軽く笑みを浮かべて答えた。
「カーラさんの剣はあまりにも重いから、攻撃の終わりに隙があった」
「そうだとさ、カーラさん」
ウォーが言うとカーラは笑って、ゲイルの兜を撫でた。
「可愛い子だ。また相手を頼むよ」
「うん、喜んで」
ゲイルの言葉に満足しカーラとウォーが試合場を後にする。
「ゲイル、私の助言に気付いたか?」
「ああ、何か変なポーズしてたね。あれ、助言だったの?」
やはり伝わっていなかった。が、戦いの中で活路を見出した弟子は素晴らしいとカンソウは評価したのであった。




