「ゲイルの挑戦」
午前の引率を終える。闘技戦士達は競い合う楽しみを再び取り戻したようだ。中には熱心にカンソウに試合のことを伝える者もいた。
そして嬉しいことにルドルフ党だった者達を問わず金に困った闘技戦士達が訪ねてくるようになった。
ルドルフが夜毎に乗り込んでくるようになったが、警備兵のブラックラックが小さな身体に漲る胆力で追い返していた。良い警備人を雇えたものだとカンソウは頼もしく思えていた。
そうして午後、ゲイルと二人でカンソウは再びコロッセオへと赴いた。
馴染みの受付嬢が歓迎してくれ、案内嬢の後に従う。
出番を告げられ、二人は薄暗い回廊を、陽の光りが見える方角へと歩んで行った。
2
運も手伝ってか、四回戦まで強豪とは会わなかった。体力的に余裕はある方だが、それでも消耗している。精神にも乱れが来る頃合いだろう。
「ゲイル、よくやった。そろそろ名の知れた者達が現れるだろう。惰性を封じ、落ち着いて挑んでくれ」
「分かった。ありがとう、師匠」
ゲイルはこちらを振り向いてカンソウと握手を交わした。そして次の相手が現れるのを待った。
ここで来たか。だが、ある意味では幸運かもしれない。一番体力を使う相手、それこそがチームサンダーボルトの二人であった。
スパークと、ボルトは愉快気に笑いながら入場した。
「小僧、まだ戦えるな?」
スパークが問う。
「まだまだいけるさ」
ゲイルが応じると、スパークはもう一度笑い、そして位置に着いた。
スパークもボルトも強敵だが、どちらかといえば、ボルトの方が手強い。これも武運の賜物と思うべきだろうか。カンソウは位置に着きながらゲイルとスパークを見た。
「第五試合、ゲイル対、挑戦者スパーク始め!」
ゲイルはグレイトソードを振りかぶり、スパークも両手を広げて互いに駆け出す。距離が縮まった瞬間、ゲイルはスライディングをする。スパークの手が空を捕まえる。ゲイルはその背後から跳躍し剣を薙ぎ払った。
「竜閃!」
スパークはこれを身を屈めて避けると、地に着いたゲイルの足を捕まえ、時計の針のようにそれでも物凄く速く旋回し振り回した。
だが、ゲイルは宙に浮きながらも自力で脱出し、よろめきながらその場に立った。目が回っているのであろう。
「ゲイル、ひとまず、出方を伺え!」
「ああ、師匠」
「フハハハッ、俺の手から逃げるとはやるな。だが、そのよろめき具合、眩暈から立ち直って無いと見た! 貰うぞ、小僧!」
スパークが猛進した。そして両手を広げる。
だが、これをゲイルは左右にステップして避けた。
「月光!」
眩暈は演技だったのだとカンソウが気付いた時にはゲイルの剣は振り下ろされていた。
だが、さすがはスパークであった。これを造作もなく避けるとゲイルの兜を殴りつけた。
何という硬い拳なのだろうか。凄まじい炸裂音が木霊した。まるで火花が見えてもおかしくはない。スパークの拳は鉄のように硬いのだ。
ゲイルは組み手から逃れたのは良いが、スパークの膂力漲る拳を顔と兜に受け続けた。カンソウは絶望した。だが、考えなければならないことは先では無い、今である。ゲイルが何回戦まで行けるかは分からない。だが、この試合を勝たねば次の試合という未来は無いのだ。
「ゲイル! しっかりしろ!」
その時だった、拳が目の前に現れた剣の刃の平にぶつかった。これは防御であり、勝ち負けには繋がらない。
「怒羅アアアッ!」
ゲイルの気合の咆哮にスパークの拳が止んだ。瞬間、ゲイルはスパークの足に斬り付けた。
スパークはこれを避ける。中段を狙って剣が突き出される。スパークはこれも避ける。その瞬間、ゲイルは剣を旋回させ、スパークの懐に入った。当たるわけにはいかないとスパークは更に避けるが、剣先が伸び突きが、スパークの胸を突いていた。
「フ、フフハハハッ!」
スパークが笑い声を上げた。
「油断したな、スパーク」
ボルトが呆れたように言った。
「勝者、ゲイル!」
審判が宣言すると、歓声と拍手、口笛が鳴った。
「うーん、駄目だな。先が触った程度だった」
「何を言う、勝ちは勝ちだ、誇れ!」
カンソウはゲイルの意気が下がるのをまずいと思い喝を入れた。
「その通りだ、誇れ! さもなきゃ、惨めなのは俺達だ」
スパークが言った。
カンソウとゲイルは思わずスパークを見た。
髭の下で不敵な笑みを浮かべ、スパークはこちらを一瞥し、ボルトと共に試合場を後にしたのであった。




