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「戻って来た者達」

 早朝、カンソウは胸が躍っていた。今日は様々な荷が届くのだ。そうして寮の運営が開始される。大事な一日なのだ。早朝ランニングの帰り道になると嬉しさは逆に緊張に変わっていた。闘技戦士をまとめ、育む寮長に自分はなったのだ。何人戻って来てくれるだろうか。

 翌朝、ゲイルと共に荷物をまとめて新設の寮へと移動した。既に警備兵のブラックラックらが来ていた。

「おはよう、カンソウ、ゲイル」

 ブラックラックらは昨夜から見張りに就いていた。あれからルドルフ党は来なかったらしい。昨日の今日、今頃、ルドルフが目を光らせているだろう。

 交代で朝食を取り、再び待っていると、帝都から荷馬車がたくさんやってきた。

 その頃にはジェーンら厨房スタッフと、清掃員達も揃っていた。

 そうして次々届く、家具などを全員で協力して運んで設置した。普段鍛えていて役に立ったのは上の階まで荷物を運べることが意外と簡単だったことだ。組み立て式のベッドに、机、椅子、他にはカーテン。カンソウとゲイルは率先して運んで行った。

 正午を過ぎ、ジェーンが新しい窯で試作のパンを焼いてくれた。それを食べながら、午後も荷物を運び入れ設置して行く。

 そんな中、一人、警備に当たっていたブラックラックがカンソウを呼んだ。

「どうした?」

 カンソウは慌てて二階から階段を駆け下りた。

 小柄なブラックラックの前に鎧を着たみすぼらしい戦士達が五人立っていた。

「ルドルフの所から来てくれたのか?」

「ああ。本当に世話になって良いのか? 俺達が?」

 一人が言うと、カンソウは頷いた。

「勿論だとも。さぁ、入ってくれ。今は荷物の設置作業をしている」

「手伝う!」

 彼らはそういうと寮の中へと入って行った。

 ルドルフ党から抜け出した者達は、見計らったように次々訪れた。

 全員が必死で熱い視線をしていた。

「やい、カンソウ! それに裏切り者ども!」

 夕暮れ時、外からルドルフの怒声が木霊した。

 カンソウは抜け出した者達が気まずそうに視線を向け合っているのを見て、外へ出なくて良いと告げ、自分はゲイルと共に出ていた。今の警備体制はブラックラックともう一人だけである。他の三人は夜に備えて仮眠を取らせている。

 カンソウが姿を見せると、ルドルフは眦を更に怒らせた。

「ルドルフ、お前も世話になりに来たか?」

「そんなわけあるか! それより、うちの腰抜け者どもを返して貰おうか? 来ているんだろう? そのぐらい分からないルドルフ様じゃないぜ!」

「排除するか?」

 ブラックラックが問うが、カンソウはまだ止めた。ゲイルには中で非戦闘員達を守らせている。ルドルフは未だに大勢の手下を従えていた。強気に出られる理由の一つである。

「ルドルフ、それにルドルフに従っている者達、これが結果の一つなのだ。ここを訪れ身を置く決意をしたということは、すなわち、もう一度、闘技戦士になる決意を固めた問うことになる。そんな彼らの意思を何故、尊重できない。ルドルフよ、それに他の皆もそうだ、今一度闘技戦士に戻ってはみないか? 試合で名を上げて脚光を浴びたいとは思わないか? 自らの剣戟の音を竜へ捧げたいとは思わないか? ここ、虎の子は、いつだって皆を歓迎する」

 カンソウが言うと、ルドルフの背後に控えていた手下達が戸惑いを見せた。

「真に受けるな馬鹿どもが!」

 ルドルフは手下達を一喝した。

「何が寮だ! 何が竜だ! くだらねぇんだよ!」

 ルドルフが抜刀したが、斬りかかっては来なかった。ブラックラックがカンソウを庇い前に出て腰のレイピアに手を掛ける。

 ブラックラック、未だにバイザーの下りた兜の下の素顔を見たことは無いが、その殺気は凄まじく、辺りを威圧していた。

「お、俺達には鈍色卿が居ることを忘れるな! 必ず報復するからな、絶対だ!」

 ルドルフはそう声を上げると、カンソウを睨み、手下達を引き連れて去って行った。

「臆病者のくせに、気に食わんね」

 夕暮れの下、ルドルフ党を見送りながらブラックラックが言った。

「だが、結局、人望がものを言う。カンソウ、あんたの言葉は少なくとも手下どもには届いたさ」

「だと良いが」

 中からルドルフ党だった者達が恐る恐る姿を見せた。

「俺達、試合に出る前に奴らにのされるかもしれない」

 不安げな顔をしていたのでカンソウは微笑んでかぶりを振った。

「心配いらん、俺やゲイルがついて行こう」

 そう返答すると、彼らは幾分安堵したように頷いた。

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