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「虎の子」

 翌日、サラディンとシンヴレス皇子がやって来た。ゲイルは未だにシンヴレス皇子であることを知らず、気楽にただの貴族の親友フォージーとして話していた。そのフォージーがこちらへ身体を向けた。

「さて、カンソウ殿、皇帝陛下の代理として直々に命令を携えて来た」

 その言葉にサラディンが、ゆっくり、片膝を付き平伏する。カンソウも倣った。ゲイルのことを構っている暇など無かった。何せ、ただの根無し草の領民であるカンソウに皇帝陛下が命令を下したというのだ。

「はっ」

 カンソウは平伏したまま床を見詰め、言葉を待った。

「先の悪党達への対応策として、貴殿が申すところ正にその通りである。今後は闘技戦士達に手厚い待遇を与える。故に、貴殿に管理人の役を任命する」

「管理人?」

 シンヴレス皇子が一通り述べ終わったのを察して、カンソウが顔を上げて尋ねると、皇子は涼やかに微笑んでいた。

「寮の方も速やかに着工に入っているよ。カンソウ殿、あなたになら闘技戦士達の心を委ねることができる。他に人員が足りない時は遠慮なく言って下さい。あ、寮の名前ですがどうしましょうか?」

 シンヴレス皇子の問いにカンソウは頭を巡らせ、申し出た。

「虎の子ではいかがでしょうか?」

「虎の子。意味はあるのですか?」

「はい、闘技戦士達は皆虎の子の様なものです。互いにせめぎ合い、大虎というチャンプを倒し超える力を手に入れることこそ、最大の喜びかと思います」

「うん、良いね、虎の子」

「恐れ入ります」

 カンソウはもう一度頭を下げた。

「では、皇帝陛下の代理としては以上です。ゲイル、模擬戦しないかい?」

「やるに決まってるだろ」

 ゲイルと皇子は外へと出て行った。

「ふぅ……」

 カンソウは思わず溜息を吐いた。皇帝陛下直々の命令だ。見事に寮を運営して行かなければ……そうしなければ、闘技戦士達は悪党に戻って、多くの血が流れる。自分が述べたことがこうも重い責任となって返って来るとはカンソウは思わなかった。

「カンソウ殿、緊張はもっともだが、寮ができるまでにやることがたくさんあるぞ」

 サラディンが言った。

「というと?」

 我ながら間が抜けていたとカンソウはすぐに恥ずかしく思った。

「まずは人員の確保だ。そして悪党になった闘技戦士達に周知すること。とりあえずは、この二つが最初の課題だな」

「人員の確保か……どうすれば良いだろうか?」

「町の掲示板にその旨貼り出せば良いだけだ。後はカンソウ殿が面接をする」

「面接?」

「そうか、お主は傭兵一筋で来たのだな。一般的な職業に就くには、志望者が本当にその職に相応しいのか、見る場面を設けるのだ」

「難しいな……」

「固く考えるな、貴殿の裁量で申し分ない。貴殿の寮なのだからな」

「俺の……」

「無益な血が流れぬように応援してるぞ」

 サラディンはそう言うと去って行った。

 カンソウは頭を抱え、腕組みし、頭を抱え、膝を打った。

「やるしかあるまい!」

 カンソウは宿の二階の部屋へと戻って行った。



 2



 カンソウはゲイルの手を借りて、町中の掲示板に直筆の求人を貼りだした。

 シェフに警備兵。思いついたのはまずはこの二つであった。

 さっそく宿のカンソウの部屋は面接室へと成り代わった。テーブルを置き、窓を背にカンソウが座り、志願者が対座する。

 しかし、思いの外、人は集まらなかった。給料についてさすがに国が金を出す以上は国とも相談するしかない。給料については後程。という追記が良くなかった。しかし、嘘を書くわけにもいかない。

 ゲイルを伝手にシンヴレス皇子にも来てもらい、ゲイルを加えて三人で面接官をやった。

 シンヴレス皇子は手慣れたものであった。カンソウも徐々に慣れ始め、過去の職業や希望する経緯など事細かに質問することができるようになった。

 そんな中、赤く長い髪の女性が入って来た。

 見間違うはずがない。

「ジェーンさん?」

「こんにちは、カンソウさん、皆さん」

「しかし、髪の色はいかがなされた?」

 カンソウの知っているジェーンの髪は金色だった。

「これが本当の私の髪の色です。コロッセオとは違うから地毛に戻してみたの」

 赤い髪のジェーンは不思議なことに前よりも妖艶さが増したようにも思えた。それでも、髪色も姿も瞳も落ち着いていて、カンソウは面接することなくテーブルを叩いた。

「採用!」

 こうして他が連絡待ちだというのに寮のシェフが一人即決されたのであった。

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