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「カンソウの意見」

 コロッセオはどうなっているのかは分からない。サラディンが敗れ、他の者が勝ち、また敗れの繰り返しかもしれない。だが、どうでも良いのだ。いや、決してどうでもいいわけでもない。チャンプに君臨するのは鈍色卿だけでは無い。その相棒、小悪党から大悪党に勢力を広げたルドルフをどうにかせねばならなかった。奴はこの宿場町でチャンプの相棒という権力の笠を着て町の雰囲気を壊している。

 時折、ルドルフ党と思われるゴロツキに堕ちた元闘技戦士達を見ながらカンソウとゲイルは駆けていた。

「おっと」

 そんな二人の前にルドルフ党の者が三人立つ。

「そんなに急いで何処へ行く?」

「どこにも」

 ゲイルはそう言うとルドルフ党の間を抜けて駆けた。だが、カンソウはそう上手くはいかなかった。ルドルフ党が通せんぼし、カンソウは言った。

「手遅れなる前に真っ当な道に戻れ」

「うるさい、何が真っ当な道だ! ここを通りたければ銀貨三枚置いて行ってもらおう」

「貴様ら、本当に腐ってしまったのか? 夢見ていた闘技戦士はどうなった? 諦めずに身を鍛えた者こそ勝つのだ、心を入れ替えて正直な道へ戻れ」

 カンソウがそう言うと、ルドルフ党の三人は苦い顔を見合わせる。カンソウはその間にルドルフ党の脇を抜けて行った。

 先からゲイルが戻って来るところであった。

「良かった、何かあったかと思って」

「悪かった」

 カンソウはそう答えながらも、ルドルフ党が何故、こうも人数を多くしてしまったのか、考えていた。

 夜、ガザシーを訪ねにゲイルは行ってしまった。

 カンソウは宿の裏で防御と反撃の鍛練をしていた。

「よぉ、カンソウ殿」

 まるで親しみを持ったような声が聴こえ、振り返ればそこにはサラディンが立っていた。

「何を考えている? まさか、私程度に負けたことを悩んでいるわけでもあるまい」

「まぁな。次は勝つさ」

「弟子の少年は居ないのだな。ちょうど良かった」

 カンソウは訝し気にサラディンを見詰めた。酒でも持って来てくれたのだろうか。

「皇子殿下が近くルドルフ党を大々的に取り締まるそのメンバーの中に貴殿も入って欲しいという要望だ」

 カンソウは驚いていた。ついにシンヴレス皇子が痺れを切らした。カンソウの脳裏を昼間出会ったルドルフ党に堕ちた闘技戦士達の姿が過った。

「大々的に取り締まるとは?」

「各拠点を襲い、一網打尽にする計画だ」

「一網打尽とは……?」

 カンソウの問いにサラディンの目が憂いを帯びた。

「捕縛する。その過程で抵抗する者は遠慮なく斬られる」

「何だって?」

 カンソウは思わず声を上げた。確かに自分はこの町の治安が悪くなるのを放ってはおけなかった。だが、あまりにも苛烈過ぎはしないだろうか。彼らはこれで前科持ちとなる。これからは不名誉のまま孤独に生きていかなければならなくなる。カンソウは思わず声を上げて縋っていた。

「待ってくれ。彼らは希望を見失っているだけなのだ」

 サラディンはこちらを凝視したままだ。カンソウは何とかサラディンに納得する答えを用意しなければならないと必死に考えていた。

「希望さえ取り戻せれば、彼らはルドルフ党を見限り再び闘技戦士に戻るだろう」

「機会を与えて欲しいというのか?」

「その通りだ」

 カンソウは薄汚れた鎧に身を包むルドルフ党の小悪党に堕ちてしまった者達のことを思い出し、幾つか考えが浮かんだ。

「まずは、彼らが安心できる必要最低限の部屋が欲しい。帰るところがあれば奴らだって幾分かは素直になれる。奴らは闘技に出る金すらないのだ。皇子殿下の配慮でそういう施設を建てて欲しい。あとは食べ物だ。食料にさえ困らなければ、奴らもわざわざルドルフ程度を頼ったりはしない」

「全て金を取らずに運営しろとそう言いたいのか?」

「そうだ。金こそが奴らがもっと欲するところだ」

「私もルドルフ党を見かけたが、衣食住の最後の二つだけが確かに不足している。鎧だけは薄汚れていてもいっちょ前に着てはいたが」

 サラディンはそう言うと頷いた。

「殿下に進言しよう。だが、約束だ。もしもルドルフ党を討伐する方向で動く際は、貴殿も鬼として参加すること。私と同じ傭兵だったのだ、殿下はそこを頼りにされている」

 つまり、戦争で人を斬ったことのある者としてだろう。そこまで考えるとはシンヴレス皇子も悩むところまで悩んだようだ。

「承知した」

 カンソウが応じると、サラディンは頷いた。

「貴殿の希望通りに平和的に解決することができれば良いがな。竜の神を怒らせることになることだけは御免だ」

 そういうと外套を掛け直し、サラディンは去って行った。

 そうだ、血生臭い出来事など起こして見ろ、偉大なる竜はどこかで世界を見ているのだ。

 カンソウは満月を見上げると、再び鍛練を始めた。

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