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「対ボルト」

 カンソウにとってフレデリックとの試合は、自信を取り戻す結果となった。六年もの放浪旅を続けていたカンソウが、同じく六年もの間、コロッセオに挑み、鍛練を続けていたフレデリックに認められる程の力を短期間で取り戻した。

 しかし、身体はそうはいかない。今日はゲイルの出番とはいえ、フレデリックとの試合からまだ回復しきれていなかった。全力を出した試合だった。とはいえ、体力の戻り具合は年相応ということなのだろうか。カンソウは今日も朝も早い未明から走り出した。眠気はひどかったが、そんな自分に鞭打ち、高みを目指すために宿場町を走った。夜勤の見回りの衛兵達とは顔馴染みになっていた。彼らとは一度、ルドルフ党の拠点に乗り込んだ仲だ。衛兵らは人的被害を出さぬように、ルドルフ党のゴロツキどもから町を守っていた。シンヴレス皇子にもこの件は伝わったらしいが、衛兵を大幅に増員すること以外、手を差し向けてはくれなかったようだ。

 皇子もコロッセオの闘技戦士。チャンプに鈍色卿とおまけのルドルフが居る限り、妥協はしないつもりだろう。

 コロッセオに来ると、竜の像へ拝礼した。そこで本当に短い小休止をし、再び駆ける。サラディンは今日はいなかった。



 2



 コロッセオの控室でジェーンとゲイルと居ると、ゲイルが言った。

「師匠もジェーンさんもさ、付き合ってるなら、何か喋れば良いんじゃないの?」

 するとジェーンは微笑んで言った。

「カンソウさんが傍にいてくれるだけで私は満足よ」

 そうして向けられた視線にカンソウは今度、出来るだけ早くジェーンとデートしなければならないと感じつつ、頷いた。

「えー、駄目だよ、そんな枯れた付き合いは。二人とも、まだ老人じゃないんだから、キスをするとかしてみせてよ」

「それはまだ早い」

 カンソウはあまりにも積極的でこういう分野では子供なゲイルに向かって言い返した。ゲイルは思案する顔をし、再び提案した。

「じゃあ、手を繋ぐとかは?」

「手を?」

 カンソウの心臓がドキリと跳ね上がった。手を握る。そのぐらいなら良いのではないだろうか。いや、まだ文でのやり取りをしただけではないか。

 すると、誰かに手を握られた。

「ジェーンさん?」

「手を握るぐらいは」

 ジェーンが少しだけ恥じらうような笑みを浮かべて言った。カンソウは手を見下ろし、ジェーンの顔を見て、間違いなくジェーンが自分の手を握っていることを確信した。顔が熱くなる。急に吹き飛びそうになる理性をカンソウは抑え込まねばならなかった。

 その時、運よく出番が告げられた。

「二人とも頑張ってね」

 ジェーンが見送り、カンソウは意識を切り替えるのに苦労しながら薄暗い回廊を歩んでいた。

「進展して良かったね」

「うるさいわ、馬鹿者が」

 カンソウはゲイルの頭を小突いた。

「はい、照れ隠し、照れ隠し」

「そろそろ意識を切り替えろ。我々は戦いに勝ちに来たのだ。そして戦うのはお前だ、ゲイル。午後クラスから爪弾きされぬようにしっかり客達に技を披露して見せろ」

「分かってるさ」

 さざ波の様な声援が一気に大きくなった。会場上空は曇りであった。

「スパークだ!」

 ゲイルが身体の各関節を鳴らすと、ブーツを蹴って中央へ駆けて行った。

 スパークにボルトが待っていた。

「よぉ、スパーク、今度は勝って見せるぜ」

「残念だが、今回の相手は俺よりも強い」

 スパークが言うと、これまた筋肉質の黒髪の男が、強靭な肉体を見せつけて進み出て来た。ボルトである。カンソウは嫌な予感がした。スパークが安心しきっているのだ。奴が言うようにボルトはスパーク以上なのかもしれない。

「全員位置に着いて」

 主審が言い、それぞれ、所定の場所まで行く。歩みながらカンソウは言った。

「油断するな」

「そんなのボルトと戦ったことが無いから無理だよ。気付いた時には油断してたって反省するだけさ」

「まぁ、そうだが、とにかく、冷静にな」

 カンソウはセコンドの距離まで移動した。

 隣からはスパークの勝ちを確信したような含み笑いが聴こえて来る。

 サンダーボルトが格闘技界のチャンプであることを弟子は忘れてはいないだろうか。それだけの実力の相手と戦うのだ。

 カンソウの心配を余所にゲイルはギラギラした勝利をもぎり取りに行く眼光で相手を見詰めている。

 まぁ、一度、やられてみなければ分からないか。

 中央の主審が一歩下がる。

「第二回戦、ボルト対、挑戦者、ゲイル、始め!」

 開始の宣言ともに両者は猛ダッシュしていた。

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