「互いの六年」
迫る刃にカンソウの身体はいち早く反応した。両手で剣を持ち、頭上を薙ぐように迎え入れる。タイミングは寸分の狂いも無かった。剣と剣とは激突し強烈な音を立てた。刃から柄へ流れ、手へ移り、凄まじい痺れが全身を揺るがせた。
「がっ……まだだ!」
カンソウは気迫を入れて競り合いに挑んだ。
「カンソウ、やるじゃないか。六年の空白なんてまるで感じられない!」
剣越しに若々しいフレデリックが不敵な笑みを浮かべた。
「あなたは強い!」
カンソウはその言葉を聴いた瞬間、感動で全身が震えた。だが、試合中だ。
「フレデリック、お前の六年を見せてもらうぞ!」
「勿論!」
両者はどちらともなく刃を離すと、フレデリックが先に飛び込んで来た。
「月光!」
縦に振られた力強い一撃をカンソウは避け、そのままフレデリックの懐に入り、ガントレットで下顎を殴りつけた。
そして、肘打ちのまま身体を押し込み、今なら出来るかもしれないと思い、フレデリックが得意としていた背負い投げを決めた。
観衆から歓声が上がった。
だが、フレデリックは素早く起き上がると、未だ手を放していなかったカンソウの手を握り返し、瞬時に背中を入れて、これも背負い投げを決めた。
「がはっ」
カンソウは背中から叩きつけられ思わず呻いた。カンソウが立ち上がろうとすると、手を放していたフレデリックが剣を振り下ろして来た。
カンソウは転がって避けて、立ち上がる。既にフレデリックは猛進し、距離はわずかであった。
相手の出方を待つか。いや、何を。
「消極的なアッ!」
カンソウも距離を詰め下段から剣を振り上げ、懐へ迫るフレデリックへ向かって下した。
全精力を注ぎこんだ一刀両断をフレデリックは両手で剣を握って受けると、そのまま鈍ら刃を生かし、スルッと滑らせて、身をカンソウの懐に入れた。
「はあっ!」
フレデリックの強烈な鉄の膝蹴りがカンソウのスケイルメイルを凹ませる。下にチェインメイルは着ていない。カンソウは衝撃に目を見開いた。途端にフレデリックが後方へ回っていた。
「裏月光!」
「くそおっ!」
カンソウも負けじと後ろを振り返り、刃を走らせる。
だが、自分がフレデリックの胴体が見えた瞬間、兜を強かに打たれた。カンソウの刃は空しく空を切り、頭に走った一撃に一瞬気を失った。
目を覚ましたのはよろめく瞬間だった。
尻もちをつき、カンソウはフレデリックを見上げていた。
「勝者、フレデリック!」
主審が宣告すると、会場が大いに沸いた。あちこちからフレデリックの名を呼ぶ声が聴こえていた。
とんだ人気者になったようだな。これが俺とお前の六年間の差か。
「だが、案外、埋められそうで安心した」
手応えを掴んだカンソウは立ち上がり、友を見た。
「鍛えれば鍛えただけ、古い力は目覚め、新しい力は気付いてくれる」
フレデリックが言った。
「鍛錬あるのみ」
カンソウは頷いた。そして不意に胸が熱くなった。
「こうして」
「ん?」
「こうして再び打ち合えて本当に俺は良かったと思っている。フレデリック、ありがとう」
その途端にカンソウは身震いし涙していた。嗚咽を漏らしていた。嬉しかったのだ、フレデリックと剣を交えることができたのが、彼の六年の培いを肌で感じる出来たことが、感動的だったのだ。
「こちらこそ、カンソウ、おかえり」
「ああ。また戦おう」
「勿論さ」
カンソウは顔を手で覆い、涙を振り払おうとしたが、溢れて来るばかりであった。
「ほい、師匠」
ゲイルがタオルを差し出していた。
カンソウは受け取り、涙を拭いながら顔を隠した。
「良かったね、師匠」
「ああ」
カンソウは頷き、師弟は試合場を去ったのであった。




