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「ドラグフォージーの相棒」

 何が起きるか分からないものだ。次戦フレデリックはサンダーボルトと当たったが、スパークとは引き分けで終わった。これで午後の部も互いに凌ぎを削る者達だけになった。つまり、チャンプまで辿り着く十連勝をする者がいなくなったということだ。

 フレデリックとスパークは決して悪い試合をしなかった。だが特別室の者達はドラグナージークを見るためにだけに訪れたようで、後はカンソウ同様察したように部屋を出て行った。

 カンソウもゲイルも引き上げて行ったが、もしかすればドラグナージークのことなので、自分達に会いに来てくれるかもしれないと思った。結局ドラグナージークは宿も食事処にも姿を見せなかった。

「師匠、明日なんだけど午前の試合観に行くよ。フォージーがいれば新しい相棒が見つかったってことになるのだろうし。それに、フォージーは強いけど、貴族だ。誰かが護衛に就かなきゃコロッセオまでだって来れやしない」

 ドラグフォージー、シンヴレス皇子が既にドラグナージークに代わる相棒を見つけたかどうか、それは勿論興味があったが、カンソウはシンヴレス皇子がその高位の身分のために余程の手練れで無いと護衛として扱わないだろうと思っていた。さすがに複数の護衛を就けていれば、ただならぬ身分の持ち主だと周囲に思わせてしまうだろう。皇子はそれを望まない。ならば、コロッセオに通うために唯一無二の護衛兼相棒はどんな者なのか……と、考えたところで、結局カンソウも皇子の心配をしながらその新しい相棒の姿が知りたかったのだ。もし、今日、シンヴレス皇子が姿を見せなかったら、明日からは自分達が迎えに行こうと決めた。

「俺も観に行く」

「うん、分かった」

 二人は二階の借りている宿の階段の前で別れた。



 2



 コロッセオ、午前の部は意外に盛況だった。自分達が出て行っても、頑張ってくれている者達がいるのだ。もしかすれば、午前の中から鈍色卿を破る者が出るかもしれない。人のいない特別室の中で師弟は、デ・フォレストとそのセコンドに就くフォーブスを観ていた。

 デ・フォレストは足技に磨きがかかっていた。そしてファルシオンでの攻撃の姿勢も良くなったように思った。努力すれば例えば必ずチャンプになれるなどと報われるとは限らないが成長はするものだ。

 そこへ銀色に輝く甲冑を身に着け、シンヴレス皇子が、もう一人と共に姿を見せた。茶色の外套を纏い、その下にはチェインメイルでも着ているのだろう。シンヴレス皇子が下がった。

「え?」

 ゲイルも拍子抜けした声を上げた。

 今回だけかは分からないが、もう一人の茶色の外套の男が戦うというのだろう。

 ドラグナージークの後釜に収まった者の実力を見てやろうと、観客達が目を皿のようにしているのが分かる。

 曲刀シャムシールを手に、謎の相棒は位置に着いた。

 反対側ではデ・フォレストが仕切り板の後ろに足を置く。

「第四回戦、デ・フォレスト対、挑戦者サラディン、始め!」

 途端にカンソウは驚いた。思い出したのだ。脳裏を竜の像の前で戦争の話を語り合ったあの男の姿が過った。まさか、ドラグナージークの後任になるとは思わなかったが、どことなく運命めいたものを感じた。

 デ・フォレストが加速し跳び蹴りを仕掛ける。サラディンは回避し、着地したデ・フォレストが振り向く前に振り返り、既に縦に斬撃を放っていた。

 デ・フォレストはバックステップして避けた。

 そしてサラディンが動かないことに痺れを切らし、疾駆した。

「喰らえやぁ!」

 デ・フォレストの魂の咆哮が木霊し、回し蹴りが放たれるがサラディンはその足を掴んで、デ・フォレストを引き寄せた。まるで羊皮紙のように軽々とデ・フォレストは引き寄せられ、胸に剣を受けて敗北した。

 片腕で、鎧を着た大の大人を造作もなく引っ張るとは思わなかった。技さえ見られなかったが、新参の大物となるだろう。

 デ・フォレストとフォーブスが立ち去る。そして驚いたことに審判が声を上げた。

「サラディン選手は棄権となりました!」

 観客がざわめく。カンソウは納得だった。サラディン自身は午後クラスの場所が相応しい。シンヴレス皇子もそれなりの実力は持っている。この組が今後、午後でカンソウ達を阻むことが手に取るように分かった。

「師匠、もう行こう。駄目だ、鍛練しなきゃ」

「そうだな。行くか」

 師弟は特別室を後にした。

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