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「カンソウ対ウォー」

 相手はウォーとカーラの組であった。六年前に午後に挑戦した頃は不思議と対戦がかぶらなかった強敵だ。

 ウォーは大人の顔つきだが、同時に若さも感じさせる。そのウォーが前に出て来た。

「あなたが、カンソウさんか?」

「あ、ああ、いかにも遅参御無礼。それと以前、我が弟子を預かっていただいて感謝いたす」

「まぁ、俺達も楽しかったよ。ゲイルは無限の可能性を秘めている。しっかり伸ばしてやってくれよ」

「勿論だ」

 両者が間合いを取り、全員が所定の位置に着いた。

 六メートル向こうで、ウォーが楽し気に笑みを浮かべているのが見える。その笑顔と気持ちに応えてやれれば良いが。

「第二試合、ウォー対、挑戦者カンソウ始め!」

 カンソウとウォーは互いに踏み出していた。それを知るや、カンソウもウォーも駆けた。

 肩口に鋭い刺突が飛び、カンソウは身を捩って避けると、こちらもウォーの首元に一刀入れようとしたが、器用に避けられた。

 ウォーが剣を振り、何事か考えているようであった。

「ウォー! 九分しかない!」

「いや、カーラさん、九分もある。よし」

 ウォーが剣を上段に上げ、振り下ろした。

 カンソウはそれを剣で受け止めた。午後の戦士として名高いウォーの斬撃は肩が壊れたかと思わせる程、痺れが駆け抜けた。

 その時、ウォーが身を屈ませた。そして一歩、強引にカンソウの胸元に入り、勢いよく身を上げた。

 強烈な頭突きがカンソウの顎を見舞った。

 一瞬、視界が暗転した。

「くそっ!」

 よろめき後退するカンソウは剣を滅茶苦茶に振って牽制する。

 だが、そこにウォーの姿は無かった。

「後ろー!」

 ゲイルが悲鳴に似た声を上げ、カンソウは弾かれるようにして慌てて前方に飛び込んで、転がった。

 ウォーの竜閃が空を切った。

 ゲイルのおかげで助かったが、ゲイルにこの技を教えるとはさすがはヒルダの夫だ。

「行くぞ、カンソウ殿!」

 ウォーが猛進してくる。カンソウは踏みとどまるべき逡巡し、遅まきながらも地を蹴った。

 両者の突きがすれ違う。足払いを互いにかけようとして、足がぶつかり、カンソウは振り返った。ウォーも同様である。

「考えが一緒だったか」

「そういうときもある」

 ウォーの言葉にカンソウも落ち着いた声で応じた。

「行くぞ」

 どこまで気が合うというのか、二人は同時に同じセリフを口にし、共に頭上から振り下ろした。

 刃ではない刃が、嚙み合ったかのように動かない。

 力比べの始まりであった。

 ウォーが押し、カンソウはどうにか踏みとどまろうとしている。その時点でカンソウの負けであった。

「師匠、頑張れ! 根性だ!」

 そうだ、弟子にばかり根性を出させるわけにもいかん。

 途端にカンソウには気付けなかった不思議な余力がウォーを押した。

 これが声援の力か。何とも鼓舞される。カンソウはそのままウォーを押し退け、剣を振り上げた。

 剣をウォーはギリギリで避け、そのまま素早い踏み込みと共に間合いに飛び込んだ。

「しまった!」

 カンソウは慌てて後退した。眼前を旋風が過り、心臓を掴まれたかのように驚いた。危機一髪であった。

「ウォー! 四分!」

「そろそろ慌てなきゃ駄目そうだな」

 カーラに手を振り、ウォーは一気に跳躍し、剣を突き出した。

 カンソウはそれを下から跳ね上げた。

「何!?」

 ウォーはこれから連続攻撃を行うところだったのだろう。その出鼻をカンソウは挫いた。大きく身を上げたウォーの胴をカンソウは剣を全力で振るって打った。

 だが、ウォーはこれも器用に避けると旋回してカンソウの側頭部に薙ぎ払いをぶつけようとして来た。

 カンソウは本能のままに勘の告げるままに屈みこみ、ウォーに足払いを仕掛けた。

 ウォーの足が不安定に傾く。

「うおっと、と」

 よろめくウォーの背後をカンソウは勇躍して切り下げた。

 だが、ウォーも譲らない。完全に回避不能に思われた体勢で転んで見せてカンソウの攻撃を避けた。

「師匠、残り一分!」

 引き分けには持ち込まない。やるか、やられるかだ。

「行くぞ!」

 カンソウは気合に満ちた声を上げ、立ち上がったウォーへと突っ込んで行った。

 ウォーも駆けて来た。

 カンソウは突きに決めた。ウォーは分からない。下段に剣を引っ提げている。

 両者が交錯した瞬間、カンソウは見た。相手の方が速く、今度はウォーの剣がカンソウの剣を跳ね上げ、返す刃で兜の頭頂部を打った。

「勝負あり。ウォーの勝利!」

 観客らが拍手と応援をくれた。

「冷や冷やした」

 ウォーはそう言い、手を差し出した。

「また機会があれば戦おう」

 真っ直ぐ見詰める優し気で勇に溢れた自分より若い瞳を見てカンソウも自分の敗北を素直に受け入れた。

「今度はこちらが勝つ」

 カンソウはそう言うと握手に応じたのであった。

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