第九話~夜闇の打開策!?~
「……で、……なの」
「……そう。………で、……が、……あ、目が……」
声が、聞こえる。
多分、四様の声だ。
それと、間宵ちゃん。
「……ん、ですか?」
……誰だろう?
……ああ、そうか、弥生ちゃん、かな?
「……です。……はい、そのように……」
あ、これはわかる。夜闇だ。
「……く、これは一体……。……こんなことも……ものか」
あと消去法で零ちゃん。
四様と間宵ちゃんはすぐに分かったのに、他の三人は声だけじゃ過ぐにわからなかった。
でも、しょうがない気もする。
だって、まだ一日しか経ってないのだ。
三人が来て、僕の部屋に住み始めてから。
……だんだん、意識がはっきりしてきた。
「……あ、目が覚めるわ」
その、誰かわからない声をきっかけに。
僕は目覚めた。
「あ、起きた。ってか、生きてたのか。今から葬儀屋に電話しようか悩んでたとこなんだよ」
いきなり、間宵ちゃんがそんな辛辣な言葉を投げかけて来た。
「はう、ま、間宵さん、今まで気を失っていた人に、その、その言い方は、どうかと……」
「は!人の料理食って気絶するような奴に与える温情はねえ!そのまま死ねばよかったんだ!」
なんだか、いつもに増して乱暴な言葉遣いの間宵ちゃん。
どうしてだろう?
「……とかなんとか言っておりますが、四季様が寝ておられる間一番心配していたのは間宵さんですよ?」
「う、うっせえうっせえ!嘘だよ四季!とっとと死ねばいい、とか、私の手でとどめ刺してやろうか、とかずっと思ってたんだからな!」
「ふむ、それでかいがいしく頭の濡れタオルをこまめに変えてやったり、30秒に一回『大丈夫か、こいつ!死んだりしない、よな……?』とか訊いていたのか。実に興味深いな」
「そこ、黙りやがれ!」
「さっきまでうるさくお兄ちゃんの心配してたのは誰だった?『病院連れて行った方がいいのかな』って、あなたたちお兄ちゃんに毒盛ったの忘れてそんなことまで言って……」
まあ、調べて体から毒物が検出されたら間違いなく間宵ちゃんたちは警察のご厄介になるだろう。
「ち、ちが、あれは、その、ってか、毒ってなんだよ……ってああ、もう!」
そう言って突っかかろうとするが、相手が四様なのを見て、うっ、と動きを止める間宵ちゃん。
……なんだか今日は間宵ちゃんがかわいく見える。こんなの本人に言ったらまた気絶させられそうだけど。
「……僕は、どれぐらい眠っていたの?」
頭にある冷えた濡れタオルを手でどかしながら、訊いた。
「おおよそ4時間、現在時刻は9時でございます」
すぐに答えが返ってきた。他のみんなは時計を見たりしてるのに、ずっと僕の方を向いて、正確な時間を言った。すごいな、夜闇は。
「私の名前は十三夜月夜闇。完全を示す『望月』一歩手前を意味します。料理以外で、私が失敗することはあり得ません」
自信満々にそう言う夜闇。
「へえ、さすがだね。……じゃあさ、四様の外国行きとか止めれたり……しないよね、やっぱり」
さすがに冗談言いすぎたかな。ああ、お兄ちゃんに任せろとか言っておきながら、僕は何を……
「可能です」
「「「「え?」」」」
僕、四様、弥生ちゃん、間宵ちゃんの四人が同時に声を上げた。
「か、可能って、ど、どうやって?神の運を持つ私でも、このできごとは、……回避できなかったのに……」
「いえ、おそらく四様さんの運は発揮しています。私に会い、四季様が四様さんの外国行きを止めたい、そうおっしゃったというだけで、もうその願いはかなったも同然。……さあ、四季様。私にご命令を。『四様の外国行きを止めろ』、と」
ど、どうしよう?
正直、夜闇さんはできると思う。……でも、一体どうやって?
「あ、あの、夜闇。どうやって、止めるのかな?」
なぜか、それを訊かなきゃ絶対にダメな気がして仕方がなかった。
「いくつか方法があります」
「いくつも方法があるの?」
「はい」
「言ってみて」
「了解しました」
いったん息を切って、夜闇はその方法を、語り始めた。
「まず、第一に。
四様さんを引き取っておられるという祖父母さん達二人を、亡き者に。そうすれば四様さんに外国に行けと強要する人間はいなくなるわけです」
さっきの僕の直感も、四様の運の内なのだろうか。夜闇の話を聞きながら、僕は思った。
「え、あ、その、つ、続けて?」
あれ、なんで僕、こんなこと言ってるんだろ?
「第二に、外国におられるという能力開発の先生を亡き者にすることです。そうすれば目的がなくなり、祖父母さんも外国に行けと強要しなくなるでしょう」
また、訊いていてよかったと思った。もしなにも訊かずに止めてと命令していたら……
想像したくない。
みんなは急に頭角を現した夜闇の怖さに閉口し、何も言えずにいる。
「も、もっとないの?」
できるだけ、安全なの。
夜闇にはどうやら、その意思をくみ取ってはくれなかったようだ。
「第三に、四様さんを亡き者に。いくらなんでも、死体が能力を進化させるとは――」
「本末転倒じゃねえかこら!」
わりかし本気で、間宵ちゃんが夜闇の後頭部をはたいた。よくやった、とみんなも目で言ってる。
「何をするのです」
「何をするのですじゃねえバカ野郎!てめえさっきから黙って聞いてりゃ物騒なことばっかりじゃねえか!てめえメイドじゃなかったのかよ!」
「今のメイドは戦闘するもののほうが多いと聞きましたが」
「それは物語の中でのことだろ!本気にすんなバカ!」
間宵ちゃんが、なんとか夜闇の暴走を止めてくれた。
夜闇だけは、怒らせたらダメだ。
しだいにうるさくなる部屋の中、僕は深く心に、この言葉を刻みつけた。