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第八話~新たな決意と死の香り!?~

 

 「行かせないぞ」


 僕はつよい口調で言った。


 「……え?」

 四様はどうも驚いているみたいだった。

  

 「絶対に、行かせないぞ。そんなバカみたいな理由で、外国になんか行かせるもんか」

 そうだ。何考えてるんだ、祖父母達は。


 能力を増強する?そんなことしたら、今まで病院送り程度で済んだ闇討ちが今度から本当の意味での闇討ちになっちゃうだろう。


 「……おにい、ちゃん。……ありがたいけど、無理だよ」

 「無理じゃない。……絶対、外国なんて行かせるもんか。行かせないぞ。……絶対にだ」


 僕は強い口調で言う。

 四様は驚いたような顔をしているが、その顔にうれしいとか、そう言った表情はない。


 「……無理だよ。……だって、もう一週間後には先生のところに行くことになってるんだから……」


 「大丈夫。おにいちゃんに任せて。四様はしばらく休んでて。……長旅で疲れたろう?」

 僕はできるだけ、優しく言った。

 

 正直、何をすれば四様が外国へ行かずにいられるかなんて僕には思いもつかない。


 でも、いったん部屋に戻れば。


 弥生ちゃんも、夜闇も、零ちゃんも、間宵ちゃんだっている。


 三人あれば、文殊の知恵。

 五人でなら、文殊よりもきっといい知恵がでる。


 ……四様を、守るんだ。


 「……うん。お兄ちゃんの部屋で休んでて、いい?」

 「いいよ。……じゃ、帰ろうか」


 僕はともすれば泣きだしそうな顔の四様を見ないふりをし、前を行って歩く。


 「よかったよう……」


 ふと、注意していなけらば聞こえないほど小さく、四様は言った。

 

 「よかったう……私、お兄ちゃんに嫌われたんじゃないかって、ずっと、ずっと思ってた……」


 ……そうか。あの時、僕があのアパートから出たくないと言ったのは、自分と会いたくないからだと、思われてたのか。


 「嫌う?誰が誰を?僕のたった一人の血を分けた妹を、嫌うわけないじゃないか」


 僕は少しだけキザったらしく、そう言った。


 「……うん、私も、お兄ちゃん大好きだよ」

 「僕もさ」


 僕と四様は夕日に染まりかけた道を、昔のように歩いて帰った。


 なんだか、家に帰ったらお父さんもお母さんもいるんじゃないだろうか。


 そんなありえない想像をしてしまうぐらい、懐かしかった。


 












 お父さんはいなかった。

 お母さんもいなかった。

  

 でも、はなぜかエプロン姿の彼女たちはいた。


 「……みんな?」


 「な、なんですか?」

 「なんでしょう」

 「なんだい?」

 「なんだよ」


 同時に返答が返ってくる。


 「……何よ、あんたたち」


 四様がそう引きながら言うのも、今では無理なかった。


 だって、四人とも、エプロン姿。


 ここまでは、いい。


 うん、たしかにみんな似合ってる。でも、その四人が囲っている鍋の中身が、まずかった。


 いや、まずそうだった。


 「……お、お料理、作ってます」

 「料理をしています」

 「料理をしているんだ」

 「料理してんだよ」


 僕は四様に対抗するために魔術の力でも借りようとしていたのかと思ったけど、どうもみんなの答えを聞く限りでは、料理をしていたようだった。


 でも、鍋の中身は確実にそっち方面の内容だよ?


 黒、紫、緑、赤……


 それらがマーブル状に形作って、きれいな模様を描いている。もしこれがきれいなガラス球の中に封入されていたら、さぞかし美しいインテリアになるんだろうな、ってぐらいには整っている。


 でも、これはインテリアではなく、料理だ。


 ……まさか、僕と四様が食べるんじゃない、よね?


 「……お兄ちゃん、きっと食べるのお兄ちゃんだけだよ。だって、私運あるもん」

 

 あ、そうか。四様は神がかった運があったんだな。と、いまさらながらに妹の能力を再認識。


 

 「な、何があったかは知りませんが、ど、どうぞ四季君・・・、た、食べてください!みんなで作りました!」

 「四季様・・・に食べていただくため、私たちは奮闘しました。……せめて、一口だけでも」

 「四季・・、キミのためにボクが頑張ったんだ、ちゃんと食べてくれるだろう?」

 「わ、私、料理は少しだけ不得意だけど、お、おまえ、じゃなかった、四季・・、お前のために作ったんだ、食べてくれ!」



 ……はい、みんな誰一人として四様の存在を考えてる人がいない。

 助けて……

 そう言う意思をこめて四様を見た。


 「………」


 もう死を待つだけの病人を見るような顔をして、四様は首を振った。

 「……お兄ちゃん、本当にお兄ちゃんはいいお兄ちゃんだったよ」

 

 別れの言葉までつけてきた。


 「……ええい、ままよ!」


 僕は差し出されたそろそろ色が混ざってなぜか金色銀色になりつつある鍋をにらみつけ……






 最初の一口を口に含んだとたん、僕の意識はブラックアウトした。






 もう、この人たちにキッチンを明け渡すもんか。

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