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第六十話~情報収集開始!?~

 『あたし、せかいでいちばんつよくなる!』


 小学生のころ、間宵ちゃんは僕とケンカして、僕に勝つたびそう言っていた。お父さんやお母さんのようになるのだと。


『強くなる』


 どこまで、を言わなくなったのが、中学生になってからだった。なんだか一緒にいるのが気恥ずかしくなって、お互い疎遠になっていたから、心の内を話してくれなくなっただけかも、しれないけど。


『私は、戦う』


 向上心が間宵ちゃんから消えたように思える言葉を彼女が言うようになったのは、高校生になってからだった。まるで表向きの夢とでもいうように、間宵ちゃんは世界で活躍するなどとは言っていたけど、世界一強くなる、という大言壮語を言うことはなくなった。

 現実を知ったのだろうか。違うだろう。戦闘集団との戦闘大会で優勝を飾るほどの実力を持つ間宵ちゃんなら、世界一はとても身近な、もう少し努力すれば手に入るレベルのもののはずなんだ。

 どうしてだろうか。


「……なあ、しき、ちょっときいてくれ」

「えどうしたのまよいちゃん! おんなのこがそんなことばづかいしちゃだめだよ!」


 真っ黒な画面から一転、僕の視界は間宵ちゃんの暗い顔でいっぱいになった。さっきキスしたみたいに、間宵ちゃんが僕に目いっぱい近づいているからだということは、すぐにわかった。ちょっと周りを見渡すと、そこは公園……昔、四様と一緒に遊んでいた、あの公園だった。

 これは、夢か。僕はすぐに気付いた。


「わたしな、つよくなるよ」

「え?」

「おとうさんとおかあさんはきっと、よわかったんだ。よわかったから、あんなころされかたしたんだ。つよくなれば、ころされない。せかいでいちばんつよかったら、だれにもころされない」


 その表情は、今にも壊れてしまいそうなほどはかなげで、まだ十にもなっていない女の子がするのには、あまりに哀れな表情だった。どうして僕は、かつて間宵ちゃんがこんな顔をしていたことを、忘れていたんだろうか。


「……しき、まもってやる。おまえをずっと、いっしょうまもってやる。おまえはよわい。つよくなるのはむりだ。だから、わたしがまもってやる。だれよりもつよくなるから、あんしんしろ」


 間宵ちゃんのたどたどしい誓いから、数日後。

 東堂 めぐりと東堂 まわるという夫婦が山奥で酷い死に方をしたというニュースが流れた。



「……」


 僕は目を開けた。夢から覚めたみたいだ。いつもの古臭い天井が見える。家に帰ってきたようだ。僕が体を起こすと、不安そうにしている弥生ちゃんたちが見えた。


「どうやって、ここまで?」

「警察から電話があったの。もう、心配かけないで。道の真ん中で寝てるんだから、びっくりしちゃったわ」

 

 そういったのは、四人の中で一番明るい顔をしている四様だった。きっと、絶対自分にとって不利なことは何も起こらないという自信からくる明るさなんだろうな。


「……あの、四季君、間宵さんは?」

「間宵ちゃんは……」


 何が、彼女に決断を迫らせたのだろう。僕が、やられてしまったからかな。


「四季様、暴力女は、どこへ?」

「……修行の旅に出るんだってさ」


 僕の言葉に、みんなが驚いた。


「修行の旅? 今まであいつはそんなそぶりかけらも見せなかったが?」


 零が、そんな疑問を口にする。


「……僕が目の前で殴られたのが、引き金みたいなんだ」


 僕は、間宵ちゃんが修行の旅に出た経緯を、少しずつ話していく。……でも、僕は最低だ。夢で見るまで、僕は間宵ちゃんの事情を、忘れていたのだから。


「殴られた? 何を言う。君のことを彼女はさんざ殴っていたじゃないか」

「……でも、僕が殴られたところは、今日初めて見たんだよ」


 そう、今までも何度か、今日みたいなことがあった。全部、僕が殴られる前に片が付いていた。間宵ちゃんの攻撃で。


「……間宵さんと、四季君が殴られてしまうことと、何か関係があるんですか?」

「ある。僕も詳しいことは、知らないけど。僕は、間宵ちゃんのご両親が殺されてしまったことと、関係があると思ってる」


 四様が、うつむいた。ちょっと、刺激が強かったかな。


「……では、まずは暴力女の事情を調べましょう。私と零、二人で調べます。四様と弥生さんは、ここで四季様と待っていてください」


 二人は頷いた。


「……間宵ちゃん」


 僕は、何もできないのかな。


『しき、わたしは……』


 幼いころの間宵ちゃんと、さっき、僕を気絶させる時の間宵ちゃんの表情が重なる。悲しい色に染められた、彼女らしくない表情。


「夜闇、零、よろしくね」


 そう言うことしかできない僕が、腹立たしかった。


「かしこまりました、四季様」

「了解、四季。待っていてくれ。ボクのすごさを、見せてやる」


 二人は微笑んで、僕にそう言ってくれた。

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