第六話~神の申し子、妹襲来!?~
放課後に目が覚めた。
今までどうも昏睡状態が続いて、死にそうだったらしい。
うん、さすが間宵ちゃん、暴力の桁が違うね。
そう思って体を起こすと、ここがどこだかよくわかった。
ここは保健室。白いシーツと白い壁の清潔の象徴ともいえる部屋だ。
「……四季様」
「あ、夜闇」
なんだか、こうやって夜闇を呼び捨てにするのも慣れちゃった。なれない方がいいんだろうけど、慣れてしまったものは仕方ない。
「……みんな、は?」
あれ、そう言えば僕なんでみんながそばにいてくれるなんて思ってるんだろう?
いつもいつも一人だった僕に急に人が増えて、混乱してるのかな。
「……四季様」
もう一度、夜闇が僕の名前を呼んだ。
「四季様、私はあなたのしもべです。あなたが死ねと言えば、死ぬ道具です。……ですから、何かありましたらお話ください」
夜闇は強い意志を感じられる瞳を僕に向けたまま、僕にそう言った。
「……うん、そうするよ」
なんだか、いい相談相手ができたみたいに僕は感じていた。
「……四季様、少しお話が」
「ん、何?」
神妙な顔つきで、夜闇が言ってくる。
僕の生活を変えかねない、重要な事を。
「四季様の妹様がおいでなさっています。……どうしますか?」
「……え?」
僕は口に出してそう驚いた。
秀句 四様。
愛を示す杯の紋章、知性を示す杖の紋章、意志の強さを示す剣の紋章、価値や気品を示すダイヤの紋章の四つの紋章……つまり、トランプの模様の四つの意味を丸めて、四様。
彼女は十三歳になる僕の妹であり、僕が八歳の時、両親が死んでしまったことをきっかけに生き別れてしまった。
そんな彼女が今、はるばる僕のところまできた。……ああ、元気にしているかな、四様。
僕は四様が待っているという学校の玄関まで夜闇と一緒に行った。
すると。
「……ら、あんたはどうしてお兄ちゃんと一緒に帰るってことになってんの!?普通、遠いところから兄に会いに来た妹に隣を譲るもんでしょ!?」
「そ、それはどこの普通ですか……?」
四様がいると案内されたところでは、弥生ちゃんと女の子が喧嘩をしていた。
女の子は黒髪で、とても美人だが、言動の乱暴さが少し魅力を損ねている。……間宵ちゃんみたいだ。
「……あ、お兄ちゃん!」
女の子は僕の姿を見つけると、ダッシュでこっちに駆け寄ってきて……
「うわっ!?」
いきなり、抱きついてきた。
「……四様様、四季様からお離れください」
夜闇がさりげなく、でも確実に四様を僕の体から引き離そうとする。けれど、四様は離れようとしない。
「何、あんた?私とお兄ちゃんの再会を邪魔するわけ?」
「私は四季様の従者、十三夜月夜闇です。……とにかく、お離れください」
バチバチ……って、効果音が二人の間に流れた気がした。
「……さて、弥生君、そろそろ四季が来るころだろう?……おや?」
そして、今までトイレにでも行っていたのか、第三者、研究幼女がやってきた。
「……新しい君の愛人かい?」
「私はお兄ちゃんの妹よ!なんなの、あんたは!」
「ボクは心葉零。……ふむ、妹、か。……離れたらどうだ?四季が嫌がってる」
また、バチバチ。
「おい、四季!さっきはその、少しやりすぎた……すまない、じゃなくて!あの、その、一緒に帰らねえか……って、何してやがんだてめえらは!?」
ああ、これで僕終わったな。間宵ちゃんの登場だ。
「私はお兄ちゃんの妹よ!……あんた、何?」
さすがに四様もおんなじような質問を4回もすれば煩わしく感じるのか、少しめんどくさげだった。
「私は東堂間宵。……へえ、四季の妹ねえ。昔話にゃ聞いてたが実在したんだ?てっきり四季の妄想かと思ってたぜ」
三度目のバチバチと、僕と四様を同時に攻撃する間宵ちゃん。……おーい、頼むからこれ以上刺激しないで~。四様はキレるととんでもなく怖いんだから……。
そう不安になるのは遅かったのかもしれない。
「……………如月、弥生」
ひどく、冷めた声が抱きついたままの四様から聞こえた。
「……十三夜月、夜闇」
ふわりと、地獄の底からわき出るようなそんなエネルギーが四様の周りを囲む。
「心葉、零」
周りの空気がそれにつられてひどく冷えた気がした。
「……そして、東堂、間宵」
「な、なんですか……?」
「何でしょう」
「何だい?」
「何だよ」
「……名前は、覚えた。覚悟しててね。ちゃあんと、闇討ちしてやるから」
ああ、言っちゃったよ。秀句四様の『闇討ち宣言』。
四様が本気でキレた時にしかしない宣言だが、めちゃくちゃ効果ある。
何せ、闇討ちと言っても四様が手を下すんじゃなくて、世界が手を下すのだ。
もともと、四様は神様に愛されているような人間で、運が向こうからやってきて不幸が向こうから去っていく、そんな天運の持ち主だった。
だから、彼女が闇討ちすると宣言された人間は、数日間の内に間違いなく不幸な目に遭う。
たとえば、7歳のころ僕をいじめていたガキ大将たちは、四様に宣言されたその次の日に両手両足複雑骨折で一年近く入院して、小学校の時点で留年する羽目になった。
これは噂だが、一度四様に告白した馬鹿な奴がいて、そいつも例のごとく宣言された。
『私にはお兄ちゃんがいると言うのに、それを知ってなお、私にそんなことを言うとは……!!』
それが理由らしい。
宣言された二日後、その馬鹿は……………
隠れた、絶対に秘密だったはずの趣味である女装がばれて、しかも全国区で噂が広がって、名前まで公表されてしまい、日本に居場所がなくなって今はアメリカ暮らしなんだとか。
四様との学校は遠く離れているのに僕まで噂が届いているのが、四様の力の証明だろう。
「……四様、そんな簡単に闇討ち宣言しちゃだめだよ……」
「そうね、お兄ちゃん。闇討ち取り消し」
そう言うと、四様に取り巻いていた地獄のような雰囲気はきれいさっぱり消え失せる。
あれ、四様って結構沸点低かったはずだけど……?
四様が怒りを引っ込めた理由は、すぐに分かった。勝者の余裕だったのだ。
「なんたって、お兄ちゃんは転校して私のところに来るんだもん。……あなたたちは、ここでお、わ、か、れ!」
……聞いてないぞ妹よ。




